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銀の匙 夏目漱石が未曾有の秀作として激賞したという名作。内容は簡単で、少年の頃の思いでを自伝風に書いたエッセイというだけの話。
 でもこれがすごい。
 少年の頃の出来事が、“少年の頃に感じたまま”に書かれてある。これってありえないよ。大人になって感じたことなら簡単すぎるし、子どもがこんな文章を書くのは難しすぎる。記憶だけなら誰だってあるもんだけど、そのとき世界がどのように映っていたかってのは、思い出そうって思い出せないもんなあ。

 小山田圭吾が、「Point Of View Point」という曲を説明するときに「子どもの頃、午後の陽当たりのいい部屋にいて、絨毯をなでて毛羽立たり、それを逆になでてねかしつけたりして、色が変わるのを飽きずに眺めて何時間もたってしまうような、そんな曲」とかなんとかそんな感じのことを言っていたんだけど、このエッセイは全編がそんな感じ。

 真似しようたって真似できたいな、空前絶後の傑作だと思う。どっから読んでも、どこで止めてもおもしろい。