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先週の「スタジオジブリのプロデューサー鈴木敏夫の『仕事道楽』は、組織のNo.2の参考になる」というエントリが思いのほか多くの人に読まれたことで、実はちょっとバツの悪い感じがしていました。最後の一文の「高畑勲ってのはめんどくさい性格だなw という思いを深めました」というのが、なんだか貶めているようで後味が悪かったから。

そこで、ちょっとした罪滅ぼしに『火垂るの墓』を観た。実に、20年ぶりの鑑賞です。

そもそも『火垂るの墓』をもう観なおそうと思ったのは、昨年、小黒祐一郎の「アニメ様365日」という連載において、『火垂るの墓』に関する異例の長期連載を読んだのがきっかけです。

第481回 『火垂るの墓』
第482回 『火垂るの墓』続き
第483回 『火垂るの墓』の制作進行
第484回 『火垂るの墓』で空襲に立ち合う
第485回 『火垂るの墓』のおばさん
第486回 『火垂るの墓』の「他者」
第487回 『火垂るの墓』の顔を見せない老婆
第488回 『火垂るの墓』の庭からの視線
第489回 『火垂るの墓』の二人の清太

ちょっと長いですが、『火垂るの墓』を観なおすきっかけになった部分を2箇所だけ抜粋して紹介します。


第487回 『火垂るの墓』の顔を見せない老婆

おばさんの家にやっかいになっている時期に、清太と節子は海に遊びに行く。浜辺で鬼ごっこをするかのように走り回っている2人。(中略)その後で、2人は海で遊ぶのだが、その途中で老婆と子どもが手を休めて、清太と節子を見つめるカットが入る(3-115)。初見時に、このカットをたまらなく怖いと思った。(中略)

前にも触れたように清太は、戦時下だというのに勤労動員で働いているわけでもないし、家の手伝いをするわけでもない。かといって勉強をしている様子もない。この場面では、妹と一緒に海にやってきて楽しく遊んでいる。清太はそこにいる老婆と子どもが塩をつくるために働いていることまで知っているのに、罪悪感を感じる様子もなく、平気で遊んでいる。

清太と節子が遊んでいる描写が続き、観客がそれに感情移入して楽しい気持ちになったところで、ポンと2人を見ている老婆と子どものカットが挿入される。老婆と子どもは後ろ姿であり、どんな表情であるのかは観客には分からない。それが怖い。老婆と子どもは、清太と節子の様子を見て微笑んでいるのかもしれないし、戦時下に遊んでいるのに呆れているのかもしれない。むしろ、呆れた顔を描写してくれた方が観る側としては気が楽だ。

 後ろ姿だけを見せられたことで、観客はその表情を想像することになる。老婆と子どもの表情について想像するうちに、清太と節子が戦時下に遊んでいるのがとてつもなく悪いことのように感じられ、感情移入していた自分までが悪いことをしていたような気になってしまう。老婆と子どもが微笑んでいると思った観客もいたかもしれないが、僕にはとてもそのように受け止めることはできなかった。このカットで、高畑監督はなんて意地悪なんだろうかと思った。


子供の頃は、そんな演出意図なんてまったく分からずに見ていたのですごく新鮮。
そしてもうひとつ。

第488回 『火垂るの墓』の庭からの視線

火事場泥棒は2度描写されており、今回話題にするは最初の火事場泥棒だ。空襲が始まり、人々が防空壕に駆け込んでいるとき、清太だけが別の方向に走る。民家に飛び込んで、台所にあった鍋ごと料理を盗む。そして、居間で座り込み、おひつにあったご飯を手づかみで食べ始める。おひつのご飯を食べてるのを見せた後で、その民家の庭から居間を撮った(という想定で作られた)カットになる。手前に朝顔の鉢とヒマワリがあり、その向こうに居間があり、座り込んでおひつのご飯を必死に食べている清太の背中が小さく見える。このカットが、僕にとって大変にインパクトのあるものだった。衝撃的だった、と言っても大袈裟でないくらいだ。 (中略)

観客が清太に感情移入していたならば、彼が火事場泥棒をやっているのを、息を飲んで観ていただろう。「そんなことをやっちゃ、マズイよ」と思いながら観ていたわけだ。あるいはもっと感情移入して、自分が人の家に上がり込んで手づかみでご飯を食べてるような感覚で観ていた観客もいただろう。それが Cut207で、いきなり客観的なカットに切り替わる。そこで観客は、清太を客観的な視点で観るよう強要されるわけだ。そして、自分が感情移入していた主人公が、少し距離をおいて見ればただの泥棒でしかないことを思い知る。(中略)

自分自身の話を続けると、主観的演出から客観的演出への切り替わりがショッキングだっただけでなく、庭から清太を見つめる視点のあまりの冷たさに慄然とした。冷たく厳しく主人公を見つめている人格の存在が感じられ、その存在を怖いと感じたのだ。僕がカットの割り方でここまで衝撃を受けたのは、これが最初で最後かもしれない。


なんだかんだまた高畑勲がこわい、という話にまたなりそうだけどもw

ちなみに、借りてきたDVDは、ホームパーティの最中というおよそ鑑賞には不適切なタイミングで「ちょっと観てみる?」くらいのテンションで流したんですが、画面の緊張感にみんな引きずられて、結局最後まで観てしまいました。
不思議なラストシーンが醸し出すなんとも言えない後味まで含めて、完璧に映画に引きずり込まれました。

あらためて、すごい映画です。すごい監督です。

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