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村上春樹の『小澤征爾さんと、音楽について話をする』を読んでいて、霊感を感じる場所があったのでメモっておく。それは、小澤さんが「ディレクション」という言葉について語るところ。

小澤「ディレクションという言葉がありますよね。方向性です。つまり。音楽の方向性。それがカラヤン先生の場合は生まれつき具わっているんです。長いフレーズを作っていく能力。」

小澤「要するには細かいところが多少合わなくてもしょうがないということです。太い、長い一本の線が何より大切なんです。それがつまりディレクションということ。」

小澤「この三つの音、これもひとつのディレクションなんです。ほら、『らあ、らあ、らあ』っていうやつ。そういうのを作っていける人もいるし、作れない人もいる。」

ここでいう「ディレクション」というのは、もちろん指揮者の技術や資質のことを指しているわけだけど、自分が職業としているインターネットサービスのディレクションという分野に引きつけていろいろ思う所があった。

たとえば。

リリースまであともう一息というプロジェクトがあって、その残タスクのなかには非常に優先度の高いものから、リリース後に対応してもいいような優先度の低いものもあった。しかし、なかには、自分が思う優先度と、現場のディレクターの優先度に齟齬があるタスクもあった。それに対して意図をたずねると、「ひとつのディテールを放置することで、全体の完成度がずるずる下がっていくを避けたい」ということだった。そのタスクだけ見れば重要度は低いけれど、プロジェクトの進行と関わるスタッフの意識向上のためにアクセントをつけたいという話だったので、それならばということでそのまま一任した。

あるいはまた、方向性を作り出す能力にはいささか不安はあるが、トップや周囲の期待を察知する嗅覚が異様にすぐれていて、結果的に望ましい方向に導いてしまうという人物がいる。だから、プロジェクトがおかしな方向に進みそうだなと不安に思った瞬間には、ごく自然に、その不安を察知してすぐ細かい対応が行われる。そこに、特別なミーティングは必要ない。お互い雰囲気でやって、結果として正しいゴールに到達する。手綱を引いたり、鞭で打ったりすることなく、人馬一体となってレースしているようなイメージで、PMからするとこれは最高に属する体験です。

もうひとつ自分の例でいえば、半年単位の長めのプロジェクトがあった場合に、関連するスタッフの集中を途切らせないために途中でどういう山場を作ろうかな、ということをよく考える。例えば、とある中間目標があったとして、それが9月30日までに達成されているのか、10月1日にずれこんじゃうのか、といったことにすごくこだわる。その後のペース配分を破綻させてでも、そのときに持っている物を全部差し出してでも、やる。あくまで中間目標だからクォーターの境を1日またいじゃってもいいじゃないか、という考えもあるはずだけど、あとで帳尻を合わせるには半年という期間はあまりにも長くて、それくらい緩急がないと退屈なんですよね。

小澤さんの言う「長いフレーズを作っていく能力」あるいは「『らあ、らあ、らあ』っていう」アクセントから、そんなことを思った。


村上春樹の仕事を5つだけ後世に残せるとしたら、この本はそのリストに入ってくるだろうなと思える充実作です。超おすすめ。

小澤征爾さんと、音楽について話をする小澤征爾さんと、音楽について話をする
著者:小澤 征爾
販売元:新潮社
(2011-11-30)
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