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楊令伝の11巻を読み終えました。

北方謙三の「大水滸伝構想」(『水滸伝』を19巻、『楊令伝』を15巻、現在進行中の『岳飛伝』を16巻で全50巻)によると、これで60%の達成ということになりますが、正直言って、だんだんと読むのがつらくなってきました。

楊令伝 11 傾暉の章 (集英社文庫)楊令伝 11 傾暉の章 (集英社文庫)
著者:北方 謙三
販売元:集英社
(2012-04-20)
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水滸伝の梁山泊を、巨大国家に対する反政府ゲリラだとすると、楊令伝の梁山泊は、グローバル時代のベンチャー企業、みたいな感じ。

前者は大衆が熱狂するヒーロー像をつくりやすいけれど、後者はそれが難しい。反抗すべき父がいない世界で小さなクラスタのカリスマなるか、手本のない世界で悪役を買って出るしかないから。
つまり、社員には崇拝されるけど一般的には「誰それ?」の起業家か、小さなクラスタを飛び出したけれど必然的にヒールとしての役割がついてまわる大経営者(孫さんや三木谷さんや堀江さんや)か、という世界。

小さなクラスタのカリスマたらんとするのが、主人公の楊令。
ヒールとしての役割がついてまわる大経営者たらんとするのが、敵役の李富。

しかしこの両方に、ヒーローとしての求心力が弱いもんだから、読んでいてつらいんです(著者の技量によらず、この設定でぐいぐい読ませるエンターテインメントを書くのは大変だという気がします)。

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ちなみに、そういう時代にあっても、みんなの注目を集めるのが香川やダルビッシュのようなスポーツ選手であるように、楊令伝では戦闘の技術に特化したニューヒーローの存在が一服の清涼剤みたいになってますよね。たとえば、11巻で存在感を増してきた「秦容」とか。

歴代屈指の技術の高さがあっても歴史を変えるタイミングに居合わせているわけではないという意味でも、香川やダルビッシュを思い出しました(歴史を変えるタイミングに居合わせたのは、中田や野茂だったですよね)。

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というわけで、期待はすでに次の主人公・岳飛に移っているわけですが、その期待の源は岳飛が掲げる「尽忠報国(忠節を尽くし、国から受けた恩に報いること)」というスローガン。

反抗すべき国家がなくなり、グローバルに事業展開をするベンチャー企業のほうが力を持つようになった時代にあって、「尽忠報国」というスローガンは、とてもリアリティのある揺り戻しのひとつの形だと思います。グローバルだ個人主義だと言っている流れの一方で、国家や家族といった共同体を大事にしようぜ、っていうムードがありますでしょ。

キューバ革命を模して「替天行道」というスローガンではじまった北方水滸伝が、2010年代の今に通じる現代小説としてどこまで到達できるかという点で、そして北方謙三がどういう答えを用意するのかという興味の意味で、岳飛伝にはすごく期待をしています。

楊令伝はまだあと4巻あるのでそれは文庫版で追いかけるとして、岳飛伝はハードカバーで追いかけようかな、と思ってます。