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わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)
著者:カズオ・イシグロ
販売元:早川書房
(2008-08-22)
販売元:Amazon.co.jp
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誰に紹介された訳でもなく、どこかでレビューを読んだわけでもなく、もちろん映画版を見たこともない。ただ、カズオ・イシグロのデビュー作『遠い山なみの光』を読んですごくよかったので、言葉の響きが気に入った『私を離さないで』(Never Let Me Go)を次に読む先品として選んだというだけでした。でも、これが大正解。何の予備知識もなかったのがよかったということもあるかもしれないけど、それを差し引いても、非常に素晴らしい内容でした。読後もしばらく心がざわめき立っています。

中学生や高校生の頃に体験したけれど今ではすっかり忘れてしまったようなこと。たとえば、根拠のわからない恥じらいや自尊心。たとえば、泣くべきときに泣けなかったことで心の奥底に化石のように凝り固まってしまった怒りや後悔。そういったあれやこれやが、丁寧な時間の経過と、丁寧な描写によって、これ以上ないくらい鮮やかに描かれていて、それがすごくよかった。切なすぎるあるあるですね。

小説を読み終えたらいつも、Amazonのレビューやブログの感想を一通り読んでまわるんですが、世界的な作家の傑作と誉れ高い本作はさすがにすごかったですね。平均点4.4で、5つ星は現時点で108個。

そのなかで理解に苦しむのは、これをSF小説や社会派小説として読んで、さらにその設定の隙をあげつらって悪態をつく人がいること。

いやー、これはSFでも社会派でもなく、純然たる青春小説なんじゃないですかね。

私がこの小説で思い出したのは、中勘助の『銀の匙』。これは、少年時代の心のありようをありのままに描いた傑作として名高い作品ですが、『私を離さないで』はその青春時代版だともいえるんじゃないかと思いました。

いま本屋さんに行くと、「夏に読もう!」という爽やかで暑苦しい帯とセットで絶賛イチオシ中だと思いますので、みなさんぜひ夏休みに手に取ってみてください。

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