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風の歌を聴け (講談社文庫)風の歌を聴け (講談社文庫) [文庫]
著者:村上 春樹
出版:講談社
(2004-09-15)

finalventさんが、『風の歌を聴け』(村上春樹)の解題をしているんですが、その内容がすごい!

斎藤美奈子さんが『妊娠小説』に書いた『風の歌を聴け』を読んだとき、「こういう話だったのか!」と衝撃を受けた私はまわりの人間にも聞いて回ったんですが、みんな同じく「そういう話だったのか!」という驚いた反応をするか、「そんな話だったっけ?」とポカンとしていました。さらさらと読める割に、一度で理解できる内容ではないんですね。

その『風の歌を聴け』を、finalventさんがさらに丁寧に掘り下げています。感想とかレビューとか批評というよりも、パズルを解くようなまさしく“解題”と呼ぶべき内容です。

村上春樹29歳の処女作『風の歌を聴け』(1979年)には、彼の文学の今も変わらない特徴がよく表れている。と同時に、今再読することで彼の文学に対するある種の誤読の傾向も確認できると思う。その足がかりに、書き手の側と読み手の側、全体の構図が見渡せるような観点から、この処女作を読み直してみたい。そしてもし再読結果が意外に思えたなら、村上春樹文学はまだ十分に評価されていないことになる

【第20回】村上春樹の読み方『風の歌を聴け』前編
【第21回】村上春樹の読み方『風の歌を聴け』中編
【第22回】村上春樹の読み方『風の歌を聴け』後編

いまこれを読んだ時点でわかるのは、斎藤美奈子さんが解題してくれたのは、第一から第三の物語であった、ということ。finalventさんのオリジナリティは、それに加えて、第四の物語を読み解いているところにあります。

こう書いたからといって、斎藤美奈子さんの解題から読まないといけない、というわけではありません。『風の歌を聴け』を一度でも読んだことのある人なら誰でも楽しめるこれ以上ない再読ガイドになっています。自分はこれまでに3回読み返していますが、これはまたもう一度読み返さなきゃ。


しかしfinalventさんはすごいなとあらためて思ったのは、『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年』についての解題。まず私は、この最新作について以下のような理解で読みました(参照)。


男性性は光の三原色で表現され、中心にいる多崎つくるは透明になる
女性性は色の濃淡で表現され、中心にいる沙羅は空白になる


それが間違いかどうかというはわかりませんが、でもおそらくは、下記の解説のほうが素直な読みでしょうし、正確だろうと思います。

まず重要なのは、この本のタイトルだが、長ったらしいので幻惑されてしまうが形容部分を除いて簡素にすると、「多崎つくるとその年(the years)」ということになる。二項の前項は「多崎つくる」でその部分は注目しやすい。が、パズルは「彼の巡礼の年(his yars of Plirimage)」という特定の年(the years)にある。

yearsが複数形なのは、リストの曲が複数年にわたることからの引用だが、同時に、つくるの年月を暗示している。

で、それにしても、"Year"として項化されているのだから、それには四季という4つの季節がある。春・夏・秋・冬である。これには、色彩が与えられていて、青春・朱夏・白秋・玄冬である。朱はアカ、玄はクロということで、アオ→アカ→シロ→クロというように「年」が構成される。

 で、小説もこの順で動いている。

『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年』のパズル

なるほどそうかと。言われてみればそうなんですが、物語に凝らされた技巧をこうしてさらっとリバースエンジニアリングしてみせる力ってこういうことなのかと、感嘆した次第です。

村上春樹の作品というのは、古くは偏見によって、近年では社会現象的に語られることでその作品の本質について語ることがなおざりにされがちなので、こうしたドライでクリスプな読み解きは非常に心地いいですね(ちなみに、内田樹さんや宇野常寛さんといった批評家が、現代的といいましょうか、ゼロ年代以降的に村上春樹を読み直す試みもエキサイティングです)。

ただ、こういう構造が解けたからといって、だからなんだという話ではあるんです。こういうのは、さらに本質的な、深い読みをしていくためのとっかかりにすぎないわけなので。

でもこれは、大いなる助走なのではないかとfiinalventさんのファンは期待をしてしまうわけです。cakesでは、『風の歌を聴け』に続いて『1973年のピンボール』の解題が進んでいます(そしてその後、『羊をめぐる冒険』と『ダンス・ダンス・ダンス』まで続くそうです)。これらの連載の最後として、あるいは延長として、あらためて『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年』についての文章を読んでみたいですね。もしかすると、極東ブログのほうに書かれた読後の感想(参照)以上のものが、いつか読めるかもしれません。それがいまから楽しみです。

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