傑作! 山奥のマタギが都心の住宅事情を辛口レビューする奇妙な短編小説『檜原村通信』(著・松田ジャクソン)
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山奥で獣を狩る無口なマタギ。しかし彼は「都心住居掲示板」の住人であり、熱心なヲチャーでもあった――。マンションVS戸建論争、赤坂・青山・麻布への憧憬と屈折、豊洲タワマン住民同士の罵り合い。それらどうしようもないやりとりを日課のように眺める男は、実生活の無口さからは一転、都心原理主義による持論を饒舌に語りだし、板の住人を黙らせる。そして、投稿ボタンを押し終えた男は今日も独りごちる。
『力は、自信が意思を持つ。手綱を握ろうとするな。お前はお前だ』
*
……というのが大まかな話の筋。孤独のグルメの井之頭五郎よろしく、「山の狩りでのちょっとした出来事〜掲示板のヲチ〜都心住環境に関するバトル」という一連の流れがテンプレートになった連作短編集です。それが徐々にテンプレートを逸脱して、物語上のピークに向かっていくわけですが、これが滅法おもしろい!
まずアイデアが秀逸。
それに形を与える文章力もあり、文体には独特のヴォイスがある。
さらに、力量に酔わないだけの客観性とおもてなしも備わっている。
つかみはバッチリ。短く、テンポよく、謎を残したまま最後まで一気に読ませて、話の畳み方も鮮やか。
東京の住宅事情に興味がある人には目盛りふたつ分くらい余計におもしろい。
この人は一体何者なんだろう?
いまイチオシのKindleオリジナル小説です。
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