『お前たちの中に鬼がいる』をめぐって
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拙著『セルフパブリッシング狂実録』では、『Gene Mapper - full build -』の他に2冊の小説が紙の本になる、という予言をしましたが、この本と近刊予定の『ゴースト≠ノイズ(リダクション)』をあわせたらぴったり正解ということに。
さて、この『お前たちの中に鬼がいる』をめぐって、ふたつ思うことがありました。
コストパフォーマンスで小説を読む人の顕在化
「このボリュームで99円は安い! 大満足です!」
これは牛丼やハンバーガーに対するレビューではありません。99円で販売されていた『お前たちの中に鬼がいる』の初期版に対するレビューです。
小説は牛丼なんかと違って、「値段の割にうまい(おもしろい)」というような感想はありえないと思っていましたが、さすがに99円ともなると話は変わるものですね。読者に手に取ってもらう戦略として99円という安さを選択するのはわかりますが、その価格が作品の評判にもかなり大きく影響するのだ、というのが発見でした。
多少高くてもいいから優れた文芸作品を読みたいと思っている紙の本の読者層とは異なる、安くひまつぶしをしたいという電子書籍の読者層。ひまつぶしとして比較されるのは、YouTubeの動画や無料ゲームとかでしょうか。『お前たちの中に鬼がいる』は、そういう読者層にもあたらしい文芸作品が届けられるんだという可能性を証明してみせたという意味で、エポックメイキングだったと思います。
※99円で購入できた初期版は、現在販売中止になっています。
出版社の新人賞をスキップする道
このKindle本は、1年弱で数千冊が売れました。そのあと出版社に見いだされ、今回の単行本化の運びとなったわけです。一方、出版社の新人賞を通過してもデビュー作が(実売で)数千冊も売れない、というのはありそうな話です。
どちらの方法にもメリットやデメリットがあるので必ずこうすべきだ、ってことはないと思いますが、伝統ある賞の名前に特別なこだわりがない人ならば、今後はこのふたつの方法をフラットに検討することもあるのではないかと思います。自分の力作がなにがしかの新人賞を通過するか、あるいはKDPで評判になるかは、確率的にはいい賭けになるのではないでしょうか。
コメント
コメント一覧 (5)
「
多少高くてもいいから優れた文芸作品を読みたいと思っている紙の本の読者層とは異なり、安くひまつぶしをしたいという電子書籍の読者層。ひまつぶしとして比較されるのは、YouTubeの動画や無料ゲームとかでしょうか。『お前たちの中に鬼がいる』は、そういう読者層にもあたらしい文芸作品が届けられるんだという可能性を証明してみせたという意味で、エポックメイキングだったと思います。
」
まったくその通りですね。
なのに、今回の紙書籍の発売により、99円で販売されていた個人出版バージョンを販売停止することになってしまいました。
この件については関係者で大いに悩み、議論しました。先行する事例である藤井太洋さんの『Gene Mapper(オリジナル版)』では、発売直後のキャンペーン価格でも300円、その後500円で販売されていたかと思います。早川書房からは文庫本として登場したため、紙との価格差はわずか。異なるリビジョンとして、両者が併存したまま流通し続けることが可能得たのだと思います。
一方で、『お前たちの中に鬼がいる』は単行本として出版することになりました。これは弊社の文庫形態が、販売流通において影響力ゼロという背景のゆえんです。結果として、原価を反映した紙と電子の価格が大きく乖離することに…
今後、思い切った価格の個人出版作が出版社から販売される際には、同様な事例が頻発するのでしょう。しかし、中長期的には電子版のほうにプライシングがさや寄せされ、単価は下がり続けるのでしょうね。紙に偏った視点で捉えると、ますます厳しくなる一方ですが、より多くの読者に「本」が届くのであれば、制作に携わる者としては歓迎したい気持ちでいっぱいです。
単行本化(と、単行本バージョンのKindle版リリース)によって、99円版が買えなくなってしまったことは、そこまでネガティブに思っていませんでした。投稿されたレビューが見れなくなってしまったのは残念でしたが、「幻の初期バージョン」みたいな感じでおもしろいんじゃないですかねw 今後こういう話題作があったらすぐチェックしておこう、という心理にもなりますし。
99円版で評判を集め(また、評判を確かにして)、完成度をあげたハイクオリティ版を高めの金額で出すというのは、納得感もあるし悪いことではないんじゃないかと思います。
先ほどの拙コメントはあまりに出版社側の都合ばかりだった反省していましたが、
「幻の初期バージョン」ありですね。急いで買わなきゃ!みたいな。
もし読了タイトルのC2C流通が可能になったら、逆にそちらが高騰するのかも。
興味はあっても、あとで買えばいいや、ってことになりますからね。
だから、「今だけ安い」「今しか読めない」というような「今」を演出してあげる必要があります。
自分だったら、どこかのタイミングで、「幻の初期バージョンが今だけ買えます」みたいな復活キャンペーンを企画するかもしれません。
毎度参考になります。
ところで、「残念な聖戦」拝読中で、ラストに入りつつあります。
巧みさに舌を巻いていますが、こちらもあらためて感想を述べさせていただきます!