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筒井康隆をろくに読んでこなかったことに対して、後ろめたさを感じてたんですよね。尊敬する人が「やっぱ筒井康隆はおもしろいよね」といったときに食い付けない自分の不勉強さが嫌で。

いつか読もう読もうと思いながらすでに30代も半ばですが、これまでに読んだことがなかったわけじゃないんです。『七瀬ふたたび』(1975年)と『敵』(1998年)のふたつ……。もちろんこれも悪くなかったんでしょうが、その作家世界を探求しようと気にはならなかった。入り口を間違えたんですな。

そこで『旅のラゴス』です。

端的に言って、刺さりました。
読後のいま、筒井康隆のこともっと知りたくてたまらない状態です。

旅のラゴス (新潮文庫)
筒井 康隆
新潮社
1994-03-01


きっかけはAmazonオールタイムベスト小説100という企画。ここで取り上げられていた唯一の筒井康隆の小説ですが、全作品を読んだファンにしてみれば「なぜこれが?」という思いがあるかもしれません。しかしこうして選ばれるにはなんか理由があんだろうということで読んでみました。

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事前にイメージしていた、筒井康隆らしい奇抜なSFという予想は裏切られ、これでもかというくらいにシンプルな物語でした。旅に出て、帰ってくる。でも戻ってきた自分は元のままの自分ではないというただそれだけの話。“ゆきてかえりし物語”といえばあらゆるお話の基本で、『桃太郎』や『西遊記』や『ホビットの冒険』なんかがそうですね。ある人物が生まれた土地を出て、いろんな人間に出会い、望むものを手に入れて戻ってくる。『旅のラゴス』もただそれだけの小説です。

でもそういうごまかしのきかない物語だからこそ、筒井康隆のおもしろさがよくわかったような気がします。

発展しすぎた文明や科学に対するシニカルな目線。知性や教養に対する深い信仰。残酷な仕打ちをする場合にも表情を変えず、人を抱腹絶倒させる場合にも表情ひとつ変えない不気味さ(しかしそのことによって恐怖や笑いが増幅されることを知り抜いている)。
また、連載小説というスタイルのせいか、書き飛ばしたかのような隙のある文章も出てくるんですが、基本となる文体は非常にオーソドックスで、かつ、古典に裏打ちされた安心感があって非常に読みやすい。好みでした。

物語のプロットはシンプルそのものですが、挿入されるエピソードには寓意がたっぷり含まれていて、読んでいるうちに自分の心をのぞいているような気持ちになりました。銀鉱で奴隷となった青年時代、人生の目的に到達し学者として大仕事を成し遂げる壮年時代、我が家に帰還しふたたび人生を取り戻す老年時代。主人公のラゴスが、最晩年になってその失われた青春の喪失に気づく場面では、胸がふさがれるような思いをしました。こうしたごくさりげない詩情も、筒井康隆の魅力なのでは。

というわけで、これから本格的に他の作品も読んでみようと思います。
おすすめがあったら教えてください!

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【筒井康隆】 入門者向け作品! 14選 まとめ 【SF小説】
http://matome.naver.jp/odai/2136724494221528101