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表題作の「佇む人」や「睡魔のいる夏」「母子像」も印象に残ったが、特にも「我が良き狼」が素晴らしかった。二度三度と読み返し、その度に鼻の奥がツンとした。

ハードボイルドなスペースカウボーイもの、といえば古典的なSFの舞台だけれど、「我が良き狼」が描くのはその数十年後の後日談。老いたヒーロー、ヒロイン、気のいいおやっさんに道化たお供、そして悪役。過去の栄光や青春からは遠く離れて生きるそれらの登場人物がとりわけ胸に残るのは、これが映像ではなく文章だから。読者は、若き日の姿と老いた姿の両方をイメージしながら、それぞれの人生の悲哀を感じ、それも悪くないなと思えてくる。セラヴィ。それが人生だ。

『旅のラゴス』で堪能できた筒井康隆の詩情が心ゆくまで楽しめる名編でした。