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日曜日の散歩中に、古本屋の100円ワゴンで見つけた『風の歌を聴け』のハードカバー版。79年発売の村上春樹のデビュー作。

文庫版はすでにもっていたけれど、手にとって開いてみると、40の断片に分割された物語を読むのに適したデザインが気に入って再購入。

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ひさびさに読んだが、やはりおもしろい。当時29歳の村上春樹は、バーの仕事を終えた夜更けに、キッチンテーブルでかりかりとこの小説を書いたわけだ。

そういえば、今日ちょうど村上春樹のことが話題になった。文章を書くのが苦手だという大学生へのアドバイスがそれ。

文章を書くというのは、女の人を口説くのと一緒で、ある程度は練習でうまくなりますが、基本的にはもって生まれたもので決まります。まあ、とにかくがんばってください。


これがクソリプだと受け取られて話題になったわけだけど、果たしてそうだろうか。これは、村上春樹が自分自身をどう評価しているかによって印象が変わる不思議な回答だ。

もし、最後の一文の直前がこんな調子だったら。

わたしたちはスコット・フィッツジェラルドじゃないのだから、毎日こつこつ書き続けるしかないようです。まあ、とにかくがんばってください。

少しでもましな文章を書きたいと思う人への誠実なエールであるようにも読める。

そんな村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』をいま読んで感じるのは、才能よりもむしろ努力。洒落た言い回しや、都会的な感性。そうしたデコレーションの下に、29年間の読書と労働からうまれた消せない汗染みが見て取れる。

そうしたデコレーションを必要としなくなってからあとの村上春樹が、いま「基本的にはもって生まれたもので決まります」という言葉の意味はなかなか重い。ですよね。

そして、帯の裏の吉行淳之介の言葉も、なかなか含蓄がある。のちに揶揄されるやれやれ的な村上春樹像より誠実で、正確にその作家性を捉えていると思う。