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SF大賞を獲ったあとの最新書き下ろしは、松本清張ばりの推理小説。冒頭ページから引き込まれ、一息に読み終えた。長めの小説なのにダレるところがなく、これまでの作品の中でもっとも没入感が高い。個人情報がテーマということも重なって、現代を生きる万人にお薦めできる傑作。藤井作品のなかで一番好きかも。


武岱(ぶだい)という謎の人物と、事件の謎。ミステリ的手法で読者をぐいぐい引っ張るが、その中心にあるのは、一般には理解しがたいIT土方(という言葉をあえて使います)の思考回路の謎。物語の後半、それが鍵になって全てが解き明かされる。
小説内には、現実世界を騒がせた事件やサービスやIT技術がたくさん登場するが、それが単なるパッチワークにならないのは、著者が体験してきたIT土方のリアリティがあるから。もしこのようなプロットやトリックを思いつく人が藤井さん以外にいたとしても、藤井さんのようには作品に魂を込められなかったろう。緻密な構築物の中に、切れば血の出る、生々しい叫びが塗り込められていて、ぞっとする迫力を感じさせる名作だった。

私は、紙で予約注文していたのに、待ちきれず0時発売スタートの電子版で読みました。お好きなほうでどうぞ。