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「ウェブ時代の文章読本 2013」のための前口上 〜ドレスダウンに向かう言葉と、ウェブ時代の日本語技術者〜

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思い起こせば、きっかけは「ネタフル10周年記念」のパーティのときでした。ツブヤ大学の小林さんがこんな口上で私に声をかけてくださいました。

ブログ10周年。
そろそろウェブの文章について考えたい。
その特徴、その読み方、その技法とはいったいどんなものなのか、と。

ついては、ゲストにやまもといちろうさんといちるさんをお招きしてイベントを開催したい。そのモデレーターをお願いできないか、ということでした。恐れ多いのでお断りしたいと思わないこともありませんでしたが、この話を聞いたその晩にはもう「ウェブ時代の文章読本」というテーマが浮かび、僭越ながらお引き受けすることにしました。

文章読本の元祖は、谷崎潤一郎です。

文章読本 (中公文庫)
谷崎 潤一郎
中央公論社
1996-02-18


1934年に出版されたこの文章読本は、いまも書店で気軽に買い求めることができるロングセラーとなっていますが、これがのちにさまざまな議論を呼び、「文章読本」を名乗る本が数多く出版される運びとなりました。
代表的なところでいえば、三島由紀夫、丸谷才一、井上ひさし、斎藤美奈子などでしょうか。あるテーゼをめぐった応酬から、メタ的なちゃぶ台がえしまで、綿々と議論が重ねられてきました。

ちょっと乱暴に要約してみましょう。


谷崎 「文章には、実用的と芸術的の区別はない」
三島 「いや。あるだろ」
谷崎 「思ったまま書けばいいのだ」
丸谷 「それも違う。ちょっと気取って書け」
井上 「実用的文章のお手本は巷にあふれてる。芸術的文章なんて人の好みだろ。こんな文章読本なんて読むだけ無駄!」
斎藤 「なるほど。だからみんな自分の文章読本を書くんだね。ワシにも歌わせろとマイクを取り合う老人みた〜い」


特に、斎藤美奈子さんの揶揄とユーモアによる『文章読本さん江』は強烈で、これまでの文章読本の歴史をほぼ完璧に総括しきった内容といえるものでした。これ以降に出版される文章読本にほとんど意味なんかないんじゃないか、と思えるくらいの。

しかし、この『文章読本さん江』が出版されたのは2002年。
そう、ブログ登場前夜のことなんです。

もちろん、著者の斎藤さんは、何を語り損ねたかについても自覚的で、あとがきにおいてちゃんとインターネットに触れています。もし次代の文章読本が世に問われるとすれば、それはインターネット時代の文章読本、もっといえばウェブ時代の文章読本ではないかと考えるだけのヒントがそこに残されていました。意訳して自分なりに書くとこういうようなことです。


・私たちが日常的にふれる言葉は、「印刷言語」から、「コミュニケーションの言語」に変わってきている。メール、掲示板、などなどインターネットの影響。

・言葉はいつの時代も、ドレスダウンに向かう。フォーマルな服を着崩したり、労働者の服(ジーンズなど)を取り入れたりすることが、粋でオシャレで通な人であるように、みんながかっこいいとおもう名文も、大衆が使う下品な言葉を取り上げながら、常にドレスダウンに向かっている。


さて。

谷崎潤一郎ら小説家が得意としたのは、伝統的な日本語と、当時輸入されたばかりの欧文脈との折り合いをつける技術でした。彼らが率先して、あたらしい時代に即した日本語を作っていったと考えることができます。
翻って、現代は口語の範囲がウェブを代表とするさまざまなインターネットメディアによって爆発的に広がっている時代です。メール、掲示板、チャット、ブログ、ツイッター。もしかするとブロガーというのは、それらあたらしい口語と、伝統的な日本語との折り合いをつける技術に長けた、新世代の日本語技術者なのではないか? 2013年に新しい文章読本が書かれるとすれば、それは小説家によっではなく、ブロガーによってではないのか?



前口上は以上です。

イベントは今週金曜日(11月8日)。当日は、やまもといちろうさん、いちるさん、竹内靖朗さんをお迎えして、両ブログの人気記事やウェブの名文を振り返りながら、その技術論について詳しくお話をお伺いしてみたいと思います。

参加者募集中! https://www.facebook.com/events/439765829478518/

関連リンク


【告知】11月8日19時、ツブヤ大学で何か喋ります : やまもといろうBLOG
ブログ10年続けて文章力はあがったのか? : 小鳥ピヨピヨ

追記


・イベント当日の動画



Video streaming by Ustream
えいっ:ネットで良い文章を書くコツ(のひとつ)

次回予告


新装版ロードス島戦記の加筆部分とは?

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