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筒井康隆の自選ホラー傑作集を読んだ

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昨年末に『旅のラゴス』を読んでから筒井康隆作品を読みはじめたわけですが、今回のホラー傑作選が一番、事前のイメージと近かった。初期のブラックユーモアから後の実験的作風まで網羅されたポートフォリオみたいな作品集。



1に収録されている作品はこれら。

走る取的
乗越駅の刑罰
懲戒の部屋
熊の木本線
顔面崩壊
近づいてくる時計
蟹甲癬
かくれんぼをした夜

都市盗掘団

2に収録されているのはこれら。


冬のコント
二度死んだ少年の記録
傾斜
定年食
遍在
遠い座敷
メタモルフォセス群島
驚愕の曠野

一番好みのだったのは「乗越駅の刑罰」。無賃乗車をした客とそれを咎めた駅員の会話だけで話が進むお話で、理屈を中心に相手を追い詰めたり言い逃れたりしているはずがやがて不条理な展開になって後戻りできなくなっていくというもの。悲劇的なまでに噛み合わない会話があるあるねーよの応酬で滅法おもしろい。短い紙幅のなかで読者をあっという間に異次元に引きずり込む手腕は見事で、導入部文の雰囲気はレイモンド・カーヴァー的。この作品を翻案して、実在の人物を配した対話篇を作ったらおもしろそう。ひろゆきと梅木雄平とか、堀江貴文と大元隆志とか。

本の情報





ヨッパ谷への降下

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筒井康隆の自選ファンタジー傑作選。いやー、これは素晴らしかった! 読後感はサリンジャーの『ナインストーリーズ』のよう。12個の短編がそれぞれの世界観と文体をもっていていずれも完成度が高い。短編ならではの読者の突き放し方の妙も冴えていて、それゆえどんどんのめり込んでしまう。

特に印象に残ったのは以下の九編。つまりほとんどってことだけど。

薬菜飯店
法子と雲界
エロチック街道
タマゴアゲハのいる里
九死虫
秒読み
あのふたり様子が変

ヨッパ谷への降下

自分はあまりいい漫画家読みではないけれど、いろんな作家が筒井康隆のアイデアの影響を受けているのだなとにやりとするなどした。ジョジョ第四部のイタリア料理屋は「薬菜飯店」 のなんのヒネリもない翻案なんですね。あの話を漫画化した功は認めながらも、やはり原作の下品さのほうが破壊力があっていい。

「秒読み」における大人が少年に戻る際の描写も素晴らしかった。いやー、ほんと全部おもしろかった。今まで読んだところでいえばベスト。


筒井康隆リリカル短編集『佇む人』

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表題作の「佇む人」や「睡魔のいる夏」「母子像」も印象に残ったが、特にも「我が良き狼」が素晴らしかった。二度三度と読み返し、その度に鼻の奥がツンとした。

ハードボイルドなスペースカウボーイもの、といえば古典的なSFの舞台だけれど、「我が良き狼」が描くのはその数十年後の後日談。老いたヒーロー、ヒロイン、気のいいおやっさんに道化たお供、そして悪役。過去の栄光や青春からは遠く離れて生きるそれらの登場人物がとりわけ胸に残るのは、これが映像ではなく文章だから。読者は、若き日の姿と老いた姿の両方をイメージしながら、それぞれの人生の悲哀を感じ、それも悪くないなと思えてくる。セラヴィ。それが人生だ。

『旅のラゴス』で堪能できた筒井康隆の詩情が心ゆくまで楽しめる名編でした。


「女のいない男たち2 - イエスタデイ」(村上春樹)

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先月号の文藝春秋に掲載された「ドライブ・マイ・カー」には「女のいない男たち」という副題がついていたので、もしかしたらとは思っていたのですが、今月号になって連作短編のシリーズものだということがわかりました。今月号に掲載されたのは、「女のいない男たち2 - イエスタデイ」です。



正直にいって自分はあまり楽しめなかったのですが、「10代のときのプラトニック・ラブが、成熟してからのエロスを阻害あるいは燃焼させる」という定番のモチーフに注目すれば、そのバリエーション(変奏)の歴史を振り返ってニヤリとはできるかもしれません。

まとめるとこんな感じ。

 『風の歌を聴け』 … 僕と直子
 『ノルウェイの森』 … キズキと直子
 『国境の南、太陽の西』 … 僕と島本さん
 『海辺のカフカ』 … 佐伯さんとその恋人
 『1Q84』 … 青豆と天吾

しかし本当に執拗に繰り返し登場するモチーフですねえ。



『旅のラゴス』で筒井康隆にハマりそう

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筒井康隆をろくに読んでこなかったことに対して、後ろめたさを感じてたんですよね。尊敬する人が「やっぱ筒井康隆はおもしろいよね」といったときに食い付けない自分の不勉強さが嫌で。

いつか読もう読もうと思いながらすでに30代も半ばですが、これまでに読んだことがなかったわけじゃないんです。『七瀬ふたたび』(1975年)と『敵』(1998年)のふたつ……。もちろんこれも悪くなかったんでしょうが、その作家世界を探求しようと気にはならなかった。入り口を間違えたんですな。

そこで『旅のラゴス』です。

端的に言って、刺さりました。
読後のいま、筒井康隆のこともっと知りたくてたまらない状態です。

旅のラゴス (新潮文庫)
筒井 康隆
新潮社
1994-03-01


きっかけはAmazonオールタイムベスト小説100という企画。ここで取り上げられていた唯一の筒井康隆の小説ですが、全作品を読んだファンにしてみれば「なぜこれが?」という思いがあるかもしれません。しかしこうして選ばれるにはなんか理由があんだろうということで読んでみました。

   *

事前にイメージしていた、筒井康隆らしい奇抜なSFという予想は裏切られ、これでもかというくらいにシンプルな物語でした。旅に出て、帰ってくる。でも戻ってきた自分は元のままの自分ではないというただそれだけの話。“ゆきてかえりし物語”といえばあらゆるお話の基本で、『桃太郎』や『西遊記』や『ホビットの冒険』なんかがそうですね。ある人物が生まれた土地を出て、いろんな人間に出会い、望むものを手に入れて戻ってくる。『旅のラゴス』もただそれだけの小説です。

でもそういうごまかしのきかない物語だからこそ、筒井康隆のおもしろさがよくわかったような気がします。

発展しすぎた文明や科学に対するシニカルな目線。知性や教養に対する深い信仰。残酷な仕打ちをする場合にも表情を変えず、人を抱腹絶倒させる場合にも表情ひとつ変えない不気味さ(しかしそのことによって恐怖や笑いが増幅されることを知り抜いている)。
また、連載小説というスタイルのせいか、書き飛ばしたかのような隙のある文章も出てくるんですが、基本となる文体は非常にオーソドックスで、かつ、古典に裏打ちされた安心感があって非常に読みやすい。好みでした。

物語のプロットはシンプルそのものですが、挿入されるエピソードには寓意がたっぷり含まれていて、読んでいるうちに自分の心をのぞいているような気持ちになりました。銀鉱で奴隷となった青年時代、人生の目的に到達し学者として大仕事を成し遂げる壮年時代、我が家に帰還しふたたび人生を取り戻す老年時代。主人公のラゴスが、最晩年になってその失われた青春の喪失に気づく場面では、胸がふさがれるような思いをしました。こうしたごくさりげない詩情も、筒井康隆の魅力なのでは。

というわけで、これから本格的に他の作品も読んでみようと思います。
おすすめがあったら教えてください!

関連リンク


【筒井康隆】 入門者向け作品! 14選 まとめ 【SF小説】
http://matome.naver.jp/odai/2136724494221528101

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