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『ゆかいな仏教』を読んだ

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橋爪大三郎と大澤真幸というふたりの社会学者(仏教徒ではありません)が、古今東西の宗教や哲学を引き合いにして縦横無尽に仏教を論じるている一冊。
現代人にとって仏教を理解することにどんな意味があるのか、という視座に立って、あくまでわかりやすく、かつ、おもしろおかしく対談しています。音声で聞いてみたいと思うような、痛快な内容でした。



帯には小難しそうな名前がずらずらあがってますが、内容はいたってわかりやすい。ときにゲラゲラという笑い声が聞こえてきそうなほど。

ゆかいな仏教 (サンガ新書)
橋爪大三郎
サンガ
2013-10-28



関連する本




『羆嵐』(くまあらし)を読んだ

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今からおよそ100年前。1915年(大正4年)の三毛別羆事件を元にした小説、というかノンフィクションというか。刊行は1977年。それが「Amazonオールタイムベスト小説100」にも選ばれ、レビューも非常に高評価なのでKindle版(400円)を購入して読んでみました。



「三毛別羆事件」や「福岡大ワンゲル部・ヒグマ襲撃事件」の話を知っている者にとっては、羆(ヒグマ)の恐ろしさに関する新鮮な驚きはないかもしれません。物語も単純そのもの。
しかし文章が素晴らしい! それを味わうためにおすすめしたい作品です。

朱の色は、早い速度で山火事のように尾根一帯を染め、互に合流して深くきざまれた渓谷へなだれ落ちていった
耕地では、一鍬ごとに木の根や石塊がとりのぞかれ、人や家畜の排泄物を吸収した土は朽ちた葉もふくんで柔かみを増していた。耕地は少しずつひろげられ、女たちは子を産み、子は背丈をのばしていった。
人間の集落には、家屋、耕地、道とともに死者をおさめた墓石の群が不可欠のものであり、墓所に立てられた卒塔婆や墓石に供えられた香華や家々でおこなわれる死者をいたむ行事が、人々の生活に彩りと陰翳をあたえ、死者を包みこんだ土へのつつましい畏敬にもなる

土地を求めてさまよった貧農たちを透徹した眼差しで見つめ、北海道の厳しい自然による残酷な仕打ちを慣用句に頼らず描ききっていて、文章を追っていくだけで「いい文学を読んだな」と愉快な気分になれます(ただし話の内容はグロテスク)。おすすめ。

本の情報


羆嵐
吉村昭
新潮社
2013-03-01


羆嵐 (新潮文庫)
吉村 昭
新潮社
1982-11-29

捏造・トンデモを信じたくなる気持ちとつきあう〜『幻想の古代史』を読んで

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本書のテーマはシンプルだ。

後の世から見れば明らかな捏造・トンデモとわかる話に、なぜ当代一流の知識人までもがコロりとだまされてしまうのか?

幻想の古代史〈上〉
ケネス・L. フィーダー
楽工社
2009-11


上巻で取り扱われているのは、「カーディフの巨人」「ピルトダウン事件」「藤村新一の旧石器捏造事件」など。一言でいえば、それらの捏造・トンデモを支持させたのは、聖書の記述を信じたい気持ち、イギリスが世界に誇る民族だと信じたい気持ち、日本が旧石器時代から連なる歴史ある国だと信じたい気持ちだということになる。

地球が宇宙の中心だと思い込むと、地動説のヒントが目に入らないし、神がヒトを造ったと思い込むと、進化論のヒントが目に入らない。
もっと最近の話(今もまだ認識がゆれていそうなところ)でいえば、脳がすべてを決定していると思っている人には思考する身体からのメッセージが聞き取れない、ということもある。

結局のところ人は、どれだけ賢く科学的になったつもりでも、自分が見たいと思っているものしか見ることができない、という限界を本書は示している。
なにもいまさら「巨人族は存在しない」とかそういうことを喝破するための本ではなくて、現在の自分がどんな色眼鏡をかけているのかを考えるきっかけを与えてくれることに価値がある。

   *

これは、欠席している生徒に挙手させるくらい難しい話ではあるけれど、「僕らがいま見ることができないものはなんだろう?」という認知の限界を超越しようとする問い掛けには意味があるだろう。

以下に挙げるのは、「機会は平等で、努力は報われる」という価値観の時代に生きている僕らにとって不都合な真実(かもしれないこと)のリストだ。

政治家は賢く、金持ちは優しく、イケメンはいいやつ
芸能界には枕営業も乱交パーティもない
寄付は正しく行われ、アグネスは誠実だ

もし仮にこれらが正だとすれば、少なからぬ人が、「自分の可能性」と「現状の待遇」のミスマッチを責任転嫁する先を失うかもしれない。そうなれば、終わりなき鬱を生きることを選ぶか、根底にある価値観を疑ってみるしかない。でもそれは、どちらも難しい。だから僕らは、都合のいい捏造(かもしれないこと)のリストに飛びつく。ネットのニュースの見出しや、コンビニの廉価コミックの棚は今日もそんな話題ばかりだ。

   *

僕はといえば、超古代文明の存在を信じたがる傾向にあり、真偽の疑わしい話に喜んで飛びつく。考えてみるにそれはハルマゲドン願望の裏返しで、ハルマゲドン願望がなにかといえば、文明への不信感だ。世界を成立させているテクノロジーを信じられないのは、それがあまりに高度に発展しすぎて実感が伴わないからで、馬と車輪の時代だったらそんなこと思いもしなかっただろう。むしろ未来のことを考える。

省スペースや検索可能性という利便のため、写真や音楽や書籍をデジタルデータに変換してオリジナルの物体を破棄するとき、僕は一抹のやましさと嘘臭さを感じる。百年先には失われてしまうような媒体をありがたがって、より寿命が長いはずの媒体を破棄している自分は、まるで文明の練炭自殺に加担する共犯者のようではないか。

だから僕は、自分の認知と世界とのつながりをローテクなメカニックを通して実感するために、皿洗いや自転車漕ぎに励み、薪割りや魚釣りの生活に憧れるのだ。それができないとき、僕はある種のサプリメントとして、過去にあったかもしれない超古代文明のことを考える。滅びてもなお未来に残るものの価値を思って。

   *

なんちゃって。

本の情報


絶版本。マーケットプレイスなら上巻は500円ほど、下巻は3000円弱です。

幻想の古代史〈上〉
ケネス・L. フィーダー
楽工社
2009-11


幻想の古代史〈下〉
ケネス・L. フィーダー
楽工社
2009-11

『素数の音楽』を読んだ

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落ち着けッ!素数を数えるんだッ!ってなる本を紹介するよ

友達のブログの紹介で読んだ本。
いやー、おもしろかった。

素数の音楽 (新潮文庫)
マーカス デュ・ソートイ
新潮社
2013-09-28


「リーマン予想」を縦糸にして、数学のめぐるさまざま発見の歴史をまとめた本です。類書に、サイモン・シンの『フェルマーの最終定理』や『暗号解読』がありますが、こちらのほうが数学全体の歴史を俯瞰しやすい内容でした(一方、サイモン・シンや藤原正彦の『数学者列伝』などは、数学者の「人」としての側面に顔を当てているような内容です)。

あるひとつの謎や技術の解説だけにこだわって、ニッチな世界全体を紐解いていこうとする描き方は、すごくシンプルで強力。スプリットフィンガードファストボールをめぐって野球の世界全体を描いたり、藤井システムをめぐって将棋の世界全体を描いたり、CSRFをめぐってインターネットの世界全体を描いたり、タルモゴイフをめぐってMagic The Gatheringの世界全体を描いたり、みたいに簡単に応用がききそう。そういえば、木村政彦だけにこだわって格闘技世界全体を描いているのは増田俊也さんでした。マネしてなにか書きたくなった。

関連本


フェルマーの最終定理 (新潮文庫)
サイモン シン
新潮社
2006-05-30


暗号解読〈上〉 (新潮文庫)
サイモン シン
新潮社
2007-06-28



『第2回電王戦のすべて』を読んだ

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読みました。

試合結果やそれぞれのコメントは観戦記事などで読んでしっていましたが、やはり通読するとじわじわきますね。なんといっても夢枕獏の文章がいい。

そもそも、車と人間が走る競争をして、人間が負けたからといって、悔しがる人間はいない。車の方が速いのがあたりまえだからだ。(中略)
しかし、コンピュータと人間が対戦して、人間が負けたとなると、そうはいかない。人間はくやしいし、人間は傷つくし、なんとか人間に勝って欲しいと思う。コンピュータのソフトを作っているのも同じ人間であるとわかっていても、人間はつい人間を応援してしまうのだ。
それは何故か。
それは、おそらく、これが人間の脳に関わる事だからだ。
人間を人間たらしめているのは、早く走ることでもなく、力が強いことでもなく、脳が持つ力がすぐれているからである。

その話の中で、真剣師・小池重明こそ対コンピュータ戦にもっともふさわしかったんじゃないか、という話もおもしろかった。
一方プロたちが、コンピュータから学んで刺激を受けていることも自戦記の文中からよくわかる。

コンピューターは不自由で人間は自由という見方もあるが、それも違い。流行のボーカロイドなどを見てもそうだが、コンピュータこそ何の気兼ねもなく、自由な表現ができる。(阿部光瑠)
我慢して粘り強く指すことの大切さ。これはツツカナから学んだことだった。(船江恒平)

というわけで、今月には次回の電脳戦に関する記者発表があるそうです。誰が出てくるのか、今から楽しみでならない!

関連リンク




ドワンゴと日本将棋連盟、8/21に「電王戦に関する記者発表会」を開催へ
http://news.mynavi.jp/news/2013/08/09/131/index.html

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