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中川淳一郎氏の『ウェブはバカと暇人のもの - 現場からのネット敗北宣言』を読みました。


ウェブはバカと暇人のもの (光文社新書)ウェブはバカと暇人のもの (光文社新書)
著者:中川淳一郎
販売元:光文社
発売日:2009-04-17
おすすめ度:4.0
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経歴には「アメーバニュース編集責任者」と明記されていなかったので、隠しておきたいなんらかの理由や配慮があるのかもしれませんが、検索すればわかることなのでここではそのように紹介します。
ソースは「第2回オフラインnewsing」のレポートから。

日本のニュースサイトはなぜつまらないのか? 『痛いニュース』は素晴らしい!! - トレビアンニュース

運営するニュースサイトはどういう立ち位置だと思っていますか? 
アメーバ - 世の中に立派なニュースサイトがあるので俺達は別に立派でなくてもいい! 暇つぶしになればいい。

「ウェブの特性」をニュースサイトに活かすポイントは?
アメーバ - 我々は娯楽の王様はテレビであると思ってます。インターネットが出来たことによって多様な選択肢が出来たのですが、結局はテレビの小判鮫。広告費もテレビが2兆円でネットが3600億円しか無い。テレビに連動した物を出していけばいい。

「工夫していること」「気をつけていること」は?
アメーバ - PV上げることだけしか考えて無かった。これって麻薬みたいなもの。

身も蓋もない清々しい回答で、これはこれで好感が持てます。共感する部分もあります。

だけど、本書が主張する「ネットはもう進化しないし、ネットはあなたの人生を変えないから」という主張は、ちょっと偽悪的すぎるように感じられて、同意できません。
岡田有花さんの『ネットで人生、変わりましたか?』の事例は本当だろうし、少なくとも、ネットは私の人生を変えたし。


ネットで人生、変わりましたか?ネットで人生、変わりましたか?
著者:岡田 有花
販売元:ソフトバンククリエイティブ
発売日:2007-06-01
おすすめ度:4.0
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そういう意見をひとつ紹介します。

因みに、本書を梅田望夫氏の「ウェブ進化論」の対極理論だと思っている人が多いみたいだが、私はそうは思いません。
集合知は存在するし、確かに私の生活をより豊かにしてくれたという実感があります。

ヒロイズム☆ブログから

つまり、ニュースサイトの読者の分析としてはその通りだけれど、それをウェブの利用者全般に適用したり、それをもってネットの可能性そのものを否定することはできない、と私は思います。


もちろん、著者もこれを企画した編集者も、極端な意見であることを承知で、“評論家視点に過ぎないネットへのオプティミズム”に対するアンチテーゼとしてこの本を企画したんだと思います。

ではこれは誰に向けた本なのか?

私は、大前研一さんと、大前研一さんの読者を思い浮かべながら読みました。
大前さんの近著に、『「知の衰退」からいかに脱出するか?』があります。


「知の衰退」からいかに脱出するか?「知の衰退」からいかに脱出するか?
著者:大前研一
販売元:光文社
発売日:2009-01-23
おすすめ度:4.0
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大前さんは、日本人の「知の衰退」を嘆き、それに対抗する手段をいろいろと提案しているのですが、そこでイチオシしているネットが一方で「知の衰退」を加速させているという矛盾に気づいていません(少なくともそのように読み取れます)。

知の指導者的立場にある大前さんでさえ、実は「知の衰退」に加担しているのだということを理解しておく意味で、『ウェブはバカと暇人のもの』は有効なんじゃないかなと思いました。私が「向上しながら滅びる」という記事で書いた「プラスマイナスゼロだぞ」ってことにも通じますが、物事にはいいこともあるしそうでないこともあるんだぞ、ということを理解する意味で。


というわけで、「ネットはもう進化しないし、ネットはあなたの人生を変えないから」という主張だけを真に受けると、それはそれで見誤るような気がしたので、警鐘を鳴らす意味でこの記事を書いてみました。