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夏休みの読書の宿題第五弾。

紀伊国屋新宿本店の「ほんのまくら」フェア(参照)で、『ブルース・リーが武道家として示した態度は、「武道」への批判であった』という書き出しに惹かれて購入した阿部和重の『アメリカの夜』。

アメリカの夜 (講談社文庫)アメリカの夜 (講談社文庫)
著者:阿部 和重
販売元:講談社
(2001-01-17)
販売元:Amazon.co.jp
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いわゆる青春小説なんですが、個人的には、あまり合わず、飛ばし読みしてしまいました。
分裂症を装う自己言及的な文体は、そういう効果をねらってのことなのでいいと思うのですが、映画を夢中になって観る(そしていずれは自分も撮りたいと夢想する)という経験がないので、あまりピンとこなかった。

優越感の顕示と映画制作で目的が混同した映画学校卒業生たちや、外野の人間にはさっぱりわからない作品や作家を記号的にやりとりするシネフィルたち。そうしたくだらない存在は、経歴的にあまりにもダブる著者にとってもけっして縁遠い者ではなかったはずだ。おそらくそれはこの小説が、作家阿部和重が少なくとも一度映画と離別するために書き上げた小説だからなんじゃないか、と僕は勘ぐっている。いわゆるこれも「私」小説なのだ、と。

via Amazon カスタマーレビュー

参考になったのは上記のレビュー。
刺さる人にはぶっ刺さる小説だと思います。

印象的だったのは、フィリップ・K・ディックの『ヴァリス』と、フランソワ・トリュフォーの『アメリカの夜』をこんな風に(というのは読んでのお楽しみ)小説に取り込む構想の巧みさ。こんなことを思いついちゃったら、自分も小説を書きたくなるだろうなと思った。

とにかく、著者が気持ち良さそうに書いていて、ほとばしるインクの匂いがしそうな小説です。

青春小説の傑作、カズオ・イシグロの『私を離さないで』(Never Let Me Go)

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わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)
著者:カズオ・イシグロ
販売元:早川書房
(2008-08-22)
販売元:Amazon.co.jp
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誰に紹介された訳でもなく、どこかでレビューを読んだわけでもなく、もちろん映画版を見たこともない。ただ、カズオ・イシグロのデビュー作『遠い山なみの光』を読んですごくよかったので、言葉の響きが気に入った『私を離さないで』(Never Let Me Go)を次に読む先品として選んだというだけでした。でも、これが大正解。何の予備知識もなかったのがよかったということもあるかもしれないけど、それを差し引いても、非常に素晴らしい内容でした。読後もしばらく心がざわめき立っています。

中学生や高校生の頃に体験したけれど今ではすっかり忘れてしまったようなこと。たとえば、根拠のわからない恥じらいや自尊心。たとえば、泣くべきときに泣けなかったことで心の奥底に化石のように凝り固まってしまった怒りや後悔。そういったあれやこれやが、丁寧な時間の経過と、丁寧な描写によって、これ以上ないくらい鮮やかに描かれていて、それがすごくよかった。切なすぎるあるあるですね。

小説を読み終えたらいつも、Amazonのレビューやブログの感想を一通り読んでまわるんですが、世界的な作家の傑作と誉れ高い本作はさすがにすごかったですね。平均点4.4で、5つ星は現時点で108個。

そのなかで理解に苦しむのは、これをSF小説や社会派小説として読んで、さらにその設定の隙をあげつらって悪態をつく人がいること。

いやー、これはSFでも社会派でもなく、純然たる青春小説なんじゃないですかね。

私がこの小説で思い出したのは、中勘助の『銀の匙』。これは、少年時代の心のありようをありのままに描いた傑作として名高い作品ですが、『私を離さないで』はその青春時代版だともいえるんじゃないかと思いました。

いま本屋さんに行くと、「夏に読もう!」という爽やかで暑苦しい帯とセットで絶賛イチオシ中だと思いますので、みなさんぜひ夏休みに手に取ってみてください。

AzyZeIzCMAICloa

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本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP新書)本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP新書)
著者:平野 啓一郎
販売元:PHP研究所
発売日:2006-08-17
おすすめ度:4.0
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小説の読み方~感想が語れる着眼点~ (PHP新書)小説の読み方~感想が語れる着眼点~ (PHP新書)
著者:平野 啓一郎
販売元:PHP研究所
発売日:2009-03-14
おすすめ度:5.0
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という2冊の本を、よりによって速読した。
罰当たりな本の読み方をしてしまったと思います。


ちなみに、文章の読み方を書いた本としては、平野啓一郎さんが敬愛する三島由紀夫の「文章読本」が有名です。多くの文章読本が「書き方」に主軸を置くのに対して、ここでは「読み方」に主軸が置かれています。そのことがもしかして、平野啓一郎さんにこの読み方シリーズを書かせたのかもしれません、と勘ぐってみました。

文章読本 (中公文庫)文章読本 (中公文庫)
著者:三島 由紀夫
販売元:中央公論社
発売日:1995-12
おすすめ度:4.5
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私がスローリーディングしたと自信を持って言えるのは『ゲド戦記』。暮らしのなかのいろんな場面で、「それってゲド戦記でいうとこういうことだよね」ってことが思い当たるくらい、血肉になってます。
そういえば1年前に「ハヤブサ」という記事を書いたんですが、これもゲド戦記の話しでした。ってもうあれから1年も経つのか。つい最近の記事みたいだ。4月は忙しくてジョギングしたくなるってことですね。

影との戦い―ゲド戦記 1影との戦い―ゲド戦記 1
著者:アーシュラ・K. ル・グウィン
販売元:岩波書店
発売日:2000
おすすめ度:5.0
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麻雀放浪記(一) 青春編麻雀放浪記(一) 青春編
著者:阿佐田 哲也
販売元:角川書店
発売日:2000
おすすめ度:5.0
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阿佐田哲也の『麻雀放浪記』の存在は、麻雀好きの教養としてもちろん知ってはいたけれど、お恥ずかしながら、読んだことがありませんでした。

何かに夢中になると文献から入るほうなので真っ先に読んでいてもおかしくなかったと思うんですが、和田誠が監督した映画版は見たし、マガジンで連載されていた『哲也-雀聖と呼ばれた男』も読んでいたしで、「まあだいたいこんな作品だろう」とたかをくくっていました。もっと言うと、あなどってました…今日の今日まで。


本当にすみませんでした!


まさかこれほどまでに文学的な名作だとは思ってもみませんでした。大衆文学の超傑作にふれた感覚という意味では、初めて北方謙三の『水滸伝』を読んだときの衝撃に近いものがあります。

特によかったのはラストシーン。あの切なさと滑稽さのバランスは、ちょっと他ではお目にかかれない出来。阿佐田哲也という希有の作家が、あの時代に、この素材に出会ったからこそ結実した奇跡のような瞬間が封じ込められています。

あまりに感激したので、写経のように文章を書き写してみました。

 「いい勝負だったな、おっさんーー」
 と健がいった。
 「俺たちも、もうあんな博打はもう二度とできねえかもしれねえや。おっさんのことはずっと忘れねえぜ」
 達も進み出て言った。
 「おっさん、俺もおっさんみてえなバイニンになって、おっさんみてえに死ぬよ」
 「おっさんーー」と私も言ったが、あとが言葉にならなかった。
 私は、自分の人なつこさに又驚いた。出目徳のみならず、健にも、達にも、精一杯の友情を抱いた。この、仲間のような、敵のような男たちに。
 帰り道は私が自転車をこぎ、健と達が幌の中におさまった。上野駅で輪タクを返すと、私たちは又下車坂に向かった。勝負の残りをやるためにーー。

古びることのない、青春小説の大傑作です。今から読んでも遅くないですよ!

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『納棺夫日記』を読みました。


納棺夫日記 (文春文庫)納棺夫日記 (文春文庫)
著者:青木 新門
販売元:文藝春秋
発売日:1996-07
おすすめ度:4.5
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関連して思い出したのは『豆腐屋の四季』。


豆腐屋の四季―ある青春の記録 (講談社文庫)豆腐屋の四季―ある青春の記録 (講談社文庫)
著者:松下 竜一
販売元:講談社
発売日:1983-01
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共通点は、「専業の物書きに憧れつつも夢破れて市井の職業人になった著者が、生活の合い間に日々の思いを書き残し、それが後に作品として出版された本」であるということ。

もちろんこれらの著者は、ただ日記を書いていたわけではありません。「納棺夫」の場合は出版業の知り合いのツテをたどって、「豆腐屋」の場合は新聞の川柳コーナーへの投稿という行為を通して、出版の機会を得ています。

こういった狭き門へ挑む努力を可能にしているのは、「内なる表現欲求」と「物書きへの憧れ」だろうと思います。その結果、私たちはその作品を読者として楽しめるわけです。ここには、書き手とメディアと読者が機能する美しい装置が働いています。

一方、今日において文章を書きたいと思うような人は、まずもってブログを開設するんだろうと思いますが、残念ながら、現在の(メディアとしての)ブログサービスは、その先の道に憧れを抱かせるような演出に成功していません。
優良な記事を書きまくるブロガーが、単なるアフィリエイターと紙一重に見えてしまうとしたら、その責任はメディアやサービス提供者の側にもあるような気がします。


かつて私も担当としてちょっと関わっていた企画として、こんな試みがありました。

ココログ新年会で「ココログブックスコンテスト」受賞作品が発表(2005/01/24)

1月22日、@niftyのブログサービス「ココログ」のユーザーが集う交流イベント「ココログ新年会」が都内で開催された。イベントでは書籍として出版する優秀ブログを決める「ココログブックスコンテスト」の結果も発表され、フクダカヨ氏による「フクダカヨ絵日記」が選ばれた。

傘が首にかかってますけど  フクダカヨ絵日記 (ココログブックス)傘が首にかかってますけど フクダカヨ絵日記 (ココログブックス)
著者:フクダ カヨ
販売元:インフォバーン
発売日:2005-03-14
おすすめ度:4.5
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ブログを本にしようというアイデアそのものは、昔っから誰もが思いつくソリューションなのですが、「内なる表現欲求」と「物書きへの憧れ」をかきたてるには、それだけじゃ足りないんだろうと思います。
「魔法のiらんど」がそれでうまくいっているとしても、ブログの場合はもうちょっと違ったかたちがあるんじゃないかなあと思っています。

とまあそんな古くて新しいテーマを思い出させてくれた本でした。自分の仕事の領域に引きつけて、思案の材料にしていきたいと思います。
あともちろん、作品としてもすごくおもしろかったのでおすすめです。こういう系の本をもっとご存知の方がいたらぜひお教えください。


※この2冊の本は、富山の薬売りよろしく家に来るたびに本を置いていく友人から推薦されたものです。どうもありがとう!

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