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「鍵のかかった部屋」をいかに解体するか(仲俣暁生)

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下北沢のBook&Beerの古本コーナーで購入した本。「鍵のかかった部屋」をいかに解体するか。

2012-09-08 11:38:50 写真1

ちなみに、この古本コーナーに出品しているのは、著者の仲俣暁生さん自身。おもしろい企画だし、リーズナブルでいい本がたくさんありました。

本の内容は、舞城王太郎や古川日出男を中心とした、村上春樹の後継者(あるいは単にチルドレン)と目される一連の作家たちや、吉本隆明・小林秀雄・寺山修司などに対する批評。

各論でどうこうじゃなくて、こういった守備範囲を持つ文学論がどストライクなので、それだけで満足度が高かった。感想として不適当かもしれないけど「こういう友人がほしいなあ」と思いましたですよ。友人じゃなくても、お兄さんとか、あるいは行きつけのバーのうるさい常連客でもなんでもいいけど(行きつけのバーとかないんですけどね)。


「鍵のかかった部屋」をいかに解体するか「鍵のかかった部屋」をいかに解体するか
著者:仲俣 暁生
販売元:バジリコ
(2007-03)
販売元:Amazon.co.jp
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青春小説の傑作、カズオ・イシグロの『私を離さないで』(Never Let Me Go)

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わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)
著者:カズオ・イシグロ
販売元:早川書房
(2008-08-22)
販売元:Amazon.co.jp
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誰に紹介された訳でもなく、どこかでレビューを読んだわけでもなく、もちろん映画版を見たこともない。ただ、カズオ・イシグロのデビュー作『遠い山なみの光』を読んですごくよかったので、言葉の響きが気に入った『私を離さないで』(Never Let Me Go)を次に読む先品として選んだというだけでした。でも、これが大正解。何の予備知識もなかったのがよかったということもあるかもしれないけど、それを差し引いても、非常に素晴らしい内容でした。読後もしばらく心がざわめき立っています。

中学生や高校生の頃に体験したけれど今ではすっかり忘れてしまったようなこと。たとえば、根拠のわからない恥じらいや自尊心。たとえば、泣くべきときに泣けなかったことで心の奥底に化石のように凝り固まってしまった怒りや後悔。そういったあれやこれやが、丁寧な時間の経過と、丁寧な描写によって、これ以上ないくらい鮮やかに描かれていて、それがすごくよかった。切なすぎるあるあるですね。

小説を読み終えたらいつも、Amazonのレビューやブログの感想を一通り読んでまわるんですが、世界的な作家の傑作と誉れ高い本作はさすがにすごかったですね。平均点4.4で、5つ星は現時点で108個。

そのなかで理解に苦しむのは、これをSF小説や社会派小説として読んで、さらにその設定の隙をあげつらって悪態をつく人がいること。

いやー、これはSFでも社会派でもなく、純然たる青春小説なんじゃないですかね。

私がこの小説で思い出したのは、中勘助の『銀の匙』。これは、少年時代の心のありようをありのままに描いた傑作として名高い作品ですが、『私を離さないで』はその青春時代版だともいえるんじゃないかと思いました。

いま本屋さんに行くと、「夏に読もう!」という爽やかで暑苦しい帯とセットで絶賛イチオシ中だと思いますので、みなさんぜひ夏休みに手に取ってみてください。

AzyZeIzCMAICloa

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『こころ』は本当に名作か―正直者の名作案内 (新潮新書)『こころ』は本当に名作か―正直者の名作案内 (新潮新書)
著者:小谷野 敦
販売元:新潮社
発売日:2009-04
おすすめ度:4.0
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小谷野敦さんの『「こころ」は本当に名作か―正直者の名作案内』を読んだ。小難しい文学論ではなく、個人的な好き嫌いに端を発したブックガイドだってのがいい。読んでいて爽快な気分になった。


■未読&これから読んでみたい

白鯨 上 (岩波文庫)白鯨 上 (岩波文庫)
著者:ハーマン・メルヴィル
販売元:岩波書店
発売日:2004-08-19
おすすめ度:4.5
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アメリカ文学史上の最高傑作と言われても食指が動かず読もうと思ったことさえなかったんだけど、『マッコウクジラに関する博物学的記述に満ちており、それを面白く思えない人には、今でもおもしろく思えないだろう』という小谷野さんの感想を読んで、一気に読みたくなった。そういうの大好き。


■未読&これからも読まない

フィネガンズ・ウェイク 1 (河出文庫)フィネガンズ・ウェイク 1 (河出文庫)
著者:ジェイムズ・ジョイス
販売元:河出書房新社
発売日:2004-01-07
おすすめ度:4.0
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ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』。あと『ユリシーズ』も。
『フィネガンズ・ウェイク』というとんでもない本に関するあれこれを読んだり調べたりするのは好きだけど(ウィキペディア参照のことー!)ですが、たぶん読めない。読める気がしない。


■既読&予想以上に評価が高かったもの

現代語訳 南総里見八犬伝 上 (河出文庫)現代語訳 南総里見八犬伝 上 (河出文庫)
著者:曲亭馬琴
販売元:河出書房新社
発売日:2003-02-05
おすすめ度:4.0
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確かに面白かったけれどそんなに面白かったろうか、と思ってしまった。小谷野さんは三国志よりなにより水滸伝が最高だ、ということを書いているので、趣味の問題もあるはず。
ちなみに、自分がこの『南総里見八犬伝』を読んだのは書評家の豊崎由美さんが何かで絶賛していたから。大衆文学でありながらこのように高評価を受けているということを考えてみても、すごさがわかる。


■既読&予想以上に評価が低かったもの

羅生門・鼻 (新潮文庫)羅生門・鼻 (新潮文庫)
著者:芥川 龍之介
販売元:新潮社
発売日:2000
おすすめ度:4.5
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私はこの『羅生門』が好きで、たまに読み返したいするんだけど、それを小谷野さんはこう書いている。『この短編が有名なのは、国語の教科書に載っているからで、なぜ載っているからというと、まさにそのような問題(『羅生門』作中の矛盾点)を教師と生徒で話し合うことができるからで、単に授業をするのに都合がいいからに過ぎないのである』と。なるほどそういうもんなんだろうか。でも自分は好き。

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現代の小説に必要なふたつのイノベーション」という記事を読んで、「時代にマッチしたイノベーティブな文学賞」と「非定住型のトキワ荘」というキーワードが響いたので、中の人である日高健さんに連絡をとってお会いしてきました。最近よく「文字文化を支える人たちを私なりに支援することはできないだろうか?」といったことを考えるので、そのヒントや刺激になればと思って。

ちなみに、過去のエントリから関連しそうなところを抜き出すとこんな感じです。

ロールモデルは菊池寛 (アルカンタラの熱い夏)

菊池寛という人は、作家という職業を経済的かつ社会的に成立させるために、「メディア創出」「賞の設立」「パトロン活動」といった多角的な活動をした人です。また、多趣味な人だったというのもポイントです。それと同じようなことを、ネットが普及した21世紀においてできないものかなあ、と考えています。

「ブログサービスと文学の新しい関係」考 (アルカンタラの熱い夏)

こういった狭き門へ挑む努力を可能にしているのは、「内なる表現欲求」と「物書きへの憧れ」だろうと思います。その結果、私たちはその作品を読者として楽しめるわけです。ここには、書き手とメディアと読者が機能する美しい装置が働いています。

一方、今日において文章を書きたいと思うような人は、まずもってブログを開設するんだろうと思いますが、残念ながら、現在の(メディアとしての)ブログサービスは、その先の道に憧れを抱かせるような演出に成功していません。
優良な記事を書きまくるブロガーが、単なるアフィリエイターと紙一重に見えてしまうとしたら、その責任はメディアやサービス提供者の側にもあるような気がします。

お会いしてからは、「書き手の側の日高さんはどういうことを思っているんだろう?」と気になって質問ばかりあびせてしまったので、私からの新しいアウトプットは特に書きません。代わりに日高さんが詳しくエントリにしていますのでご紹介します。

ライブドアブログのえらい人に会ってきた

権威ある芥川賞直木賞も、1935年に菊池寛がはじめた社会的イノベーションだったのである。それまでは、そんなものはなかったのである。

ネット社会が到来し、新たなイノベーションが必要とされているはずだ。

もし、その批評家が将来に渡って影響力を保持しようと思うなら、ネットをうまく利用する必要があるのではないのか。論座が休刊する時代である。少子高齢化が進行している時代である。大不況の時代である。

ニッチな世界のスペシャリストたちが、それを職業として成立させるには、

・パトロン(スポンサー)
・メディア
・サロン
・賞
・報酬

といったものが欠けることなくそろっていることが条件になるような気がしていて、それぞれの新しいあり方を最近よく考えてます。という話。

これからもほいほい出かけていこうと思います。

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『納棺夫日記』を読みました。


納棺夫日記 (文春文庫)納棺夫日記 (文春文庫)
著者:青木 新門
販売元:文藝春秋
発売日:1996-07
おすすめ度:4.5
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関連して思い出したのは『豆腐屋の四季』。


豆腐屋の四季―ある青春の記録 (講談社文庫)豆腐屋の四季―ある青春の記録 (講談社文庫)
著者:松下 竜一
販売元:講談社
発売日:1983-01
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共通点は、「専業の物書きに憧れつつも夢破れて市井の職業人になった著者が、生活の合い間に日々の思いを書き残し、それが後に作品として出版された本」であるということ。

もちろんこれらの著者は、ただ日記を書いていたわけではありません。「納棺夫」の場合は出版業の知り合いのツテをたどって、「豆腐屋」の場合は新聞の川柳コーナーへの投稿という行為を通して、出版の機会を得ています。

こういった狭き門へ挑む努力を可能にしているのは、「内なる表現欲求」と「物書きへの憧れ」だろうと思います。その結果、私たちはその作品を読者として楽しめるわけです。ここには、書き手とメディアと読者が機能する美しい装置が働いています。

一方、今日において文章を書きたいと思うような人は、まずもってブログを開設するんだろうと思いますが、残念ながら、現在の(メディアとしての)ブログサービスは、その先の道に憧れを抱かせるような演出に成功していません。
優良な記事を書きまくるブロガーが、単なるアフィリエイターと紙一重に見えてしまうとしたら、その責任はメディアやサービス提供者の側にもあるような気がします。


かつて私も担当としてちょっと関わっていた企画として、こんな試みがありました。

ココログ新年会で「ココログブックスコンテスト」受賞作品が発表(2005/01/24)

1月22日、@niftyのブログサービス「ココログ」のユーザーが集う交流イベント「ココログ新年会」が都内で開催された。イベントでは書籍として出版する優秀ブログを決める「ココログブックスコンテスト」の結果も発表され、フクダカヨ氏による「フクダカヨ絵日記」が選ばれた。

傘が首にかかってますけど  フクダカヨ絵日記 (ココログブックス)傘が首にかかってますけど フクダカヨ絵日記 (ココログブックス)
著者:フクダ カヨ
販売元:インフォバーン
発売日:2005-03-14
おすすめ度:4.5
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ブログを本にしようというアイデアそのものは、昔っから誰もが思いつくソリューションなのですが、「内なる表現欲求」と「物書きへの憧れ」をかきたてるには、それだけじゃ足りないんだろうと思います。
「魔法のiらんど」がそれでうまくいっているとしても、ブログの場合はもうちょっと違ったかたちがあるんじゃないかなあと思っています。

とまあそんな古くて新しいテーマを思い出させてくれた本でした。自分の仕事の領域に引きつけて、思案の材料にしていきたいと思います。
あともちろん、作品としてもすごくおもしろかったのでおすすめです。こういう系の本をもっとご存知の方がいたらぜひお教えください。


※この2冊の本は、富山の薬売りよろしく家に来るたびに本を置いていく友人から推薦されたものです。どうもありがとう!

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