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村上春樹の最新短編「ドライブ・マイ・カー」

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長い時間を一緒に過ごした伴侶と、本当にはわかりあえていなかったのではないかという恐怖と悔恨。それはまるで、目の前にあるのに視覚できない盲点のようなのかもしれない……。

と、文藝春秋の今月号に掲載された村上春樹の最新短編はそんな感じの話なのですが、読後、良きところを積極的に探すのに苦労しました。これは一体どういう作品なんだろうと。





しかし、文藝春秋を頭から最後まで斜め読みしてみてわかったのは、この小説はある種の男性を癒すことはできるかもしれない、ということでした。いや、癒すのではなくて、代わりに傷ついてくれる、という感じかも。

特集されている記事は「うらやましい死に方2013」とか「少子化時代、お墓はどうなる」など。エッセイには、「私はツイッターもフェイスブックもやらない。最後のひとりになるまで紙の本を手放さないだろう」という絶叫があり、スポーツの話題はいまだに貴乃花と長嶋茂雄。あたらしいものがないことの安心感がすごくて、これが思いのほか心地いい。

そうしたコンセプトの雑誌のなかに佇んでいる短編小説だと考えると、この作品は確かに悪くない。むしろぴったりくるんですね。これは発見でした。

北欧のオープンカーやクラシック音楽やウィスキーといったモノに対するフェティッシュな言及。
根津美術館の裏あたりのバーというロケーション。
「ドライブ・マイ・カー」というビートルズの曲名を引用したタイトル。
これらが意味する世界をブレなく伝えられる媒体が文藝春秋だったと考えればすっと胸におちる作品でした。

一方、こんな読みも。


『ダンス・ダンス・ダンス』ですか! なるほどー。
そしてお待ちかね、finalventさんの評論。

http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2013/11/post-9c4e.html

関連書籍


Kindleでも読める。けど、紙版より高額。



買えるといえば、ちょっと古いけどニューズウィークでの特集もKindleで買えます。


[ネタバレ解説] 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年(村上春樹)

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村上春樹のファンとして、続報を気にし続けているモチーフがふたつあります。

ひとつは「直子系」。
もうひとつは「35歳系」。

デビュー以来、何度も繰り返し採用されるモチーフが、どのようなバリエーション(変奏)を見せるのか。それを楽しみに新刊を追い続けています。
そういうファンからしてみると、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』はとても“おいしい一冊”です。僕の数え方によれば、直子系と35歳系が同時に登場するのは、1992年の『国境の南、太陽の西』から数えて実に21年ぶりのことだからです。

直子系とはなにか


デビュー作『風の歌を聴け』と大ベストセラー『ノルウェイの森』。この両方に「直子」という女性が登場します。物語上は別の人物ですが、そこには見逃せない共通点があります。そして、直子という名前ではないけれど、同じ共通点をもった人物が村上春樹作品の中には度々登場します。その人物を通して描かれるのは、「10代のときのプラトニック・ラブが、成熟してからのエロスを阻害あるいは燃焼させる」というモチーフです。これを「直子系」と呼んでいます。

具体的に作品名を挙げてみましょう。

『風の歌を聴け』 … 僕と直子
『ノルウェイの森』 … キズキと直子
『国境の南、太陽の西』 … 僕と島本さん
『海辺のカフカ』 … 佐伯さんとその恋人
『1Q84』 … 青豆と天吾

作品名の横に挙げた“つがい”に共通するのは、10代のときにプラトニック・ラブで強く結ばれてしまったがゆえに、大人になってから性的成熟がなんらかの形で阻害される、あるいは過激なかたちで燃焼する、というパターンです。
これがマンネリにならないのは、各作品ごとに工夫を凝らした変奏がされているからです。結果として、それぞれの結末はかなり異なった手触りになります。それを確かめるのがいつも楽しいんですよね。

35歳系とはなにか


直子系は割合にメジャーなモチーフなので話せば通じることが多いと思うのですが、35歳系は自分の造語なのでちょっと説明を要すると思います。
35歳系というネーミングの由来は、「プールサイド」(1983年)という短編にあって、そのエッセンスは「スペシャリストとして職業上は順調な人生を歩んでいる男が、30代半ばきっかけに、老いとパートナーとの問題(浮気の場合もあれば、不在の場合もある)に直面する」と表現できます。

具体的に作品名を挙げてみましょう。

「プールサイド」(『回転木馬のデッドヒート』収録) … 彼
『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 』 … ハードボイルド・ワンダーランドの私
『ノルウェイの森』 … 作品冒頭で飛行機に乗っている僕
『国境の南、太陽の西』 … 僕
『ねじまき鳥クロニクル』 … 僕

今回どのように変奏されたか


同時に採用されたこのふたつのモチーフがどのように変奏されたかというと、ポイントはタイトルが示す通り「色」です。「直子系」と「35歳系」は今回、ひとりの人物には集約されません。複数の人物にまたがった「グラデーション」として描かれます。

* 直子系
- 白根 / 死
- 灰田 / 行方不明
- 黒埜 / 海外移住


この三人はずばり「10代のときのプラトニック・ラブが、成熟してからのエロスを阻害あるいは燃焼させる」という直子系のモチーフそのものです。しかしその名前が示す“色の濃さ”の通り、主人公との現在の距離が描き分けられています。

* 35歳系
赤松 / 実業家 / バツイチで現在独身
青海 / サラリーマン / 既婚で子供あり
緑川 / 芸術家 / 独身


赤松と青海は、主人公の同級生で36歳。緑川は40代半ば、ということになっていますが、これら全てをひっくるめて「スペシャリストとして職業上は順調な人生を歩んでいる男が、30代半ばきっかけに、老いとパートナーとの問題(浮気の場合もあれば、不在の場合もある)に直面する」という35歳系と解釈していいような気がします。少なくとも、そのように中心点を置くことで、仕事やパートナーとの関係のありようがわかりやすくなります。

そして、光の三原色で表現される男性の中心にいる「多崎つくる」は、色を持たない透明な存在として描かれます(小学校の理科で習うやつですね)。
また、モノトーンの濃淡で表現される女性(あるいは女性性)の鍵となる「沙羅」もまた名前に色を持ちません。これまでの仮説が正しいとすれば、もしかして沙羅という名前は、「真っ新」とか「更地」とからの「さら」という空白を意味する和語をイメージしているのかもしれません。

そしてファンにとってたまらないのは、直子系には「双子」という村上春樹初期の懐かしいモチーフが織り込まれ、35歳系には「父」という『1Q84』で待望の登場を果たした新モチーフが織り込まれているところです。多崎つくるは、『ノルウェイの森』のワタナベくんの子供の世代としてはっきりわかるように描かれています。1983年の「プールサイド」では、同世代の人物として描かれた30代半ばの男が、今回は明らかに、村上春樹の子供の世代の30代半ばとして描かれていて、その点が非常に味わい深かった。

   *

というように、この新作は長年のファンにとってかなり楽しい内容になっています。しかも、それが単なるパッチワークではなく、2013年ならでのは新しい展開や結末を生み出しています。見所は、『ノルウェイの森』の「僕」や『国境の南、太陽の西』の「僕」に比べて、かなりストレートに過去と対決をする主人公。展開は『羊をめぐる冒険』のようにわかりやすく、読後感はどこか『ダンス・ダンス・ダンス』に近いものを感じます。おもしろいですよ。


色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 [単行本]
著者:村上 春樹
出版:文藝春秋
(2013-04-12)


関連リンク


極東ブログ - [書評]色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年(村上春樹)

村上春樹の大ファンであることを、ついさっき自覚しました。

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何かが話題になったとき、「興味ないし」って言う人いるじゃないですか。
それを見ていつも、「わざわざ口に出さないとバランスがとれない欠如を抱えているんだな」と、皮肉じゃなく本当に優しく見守っています。オトナになったらそれくらいの余裕ができました。

でも今日は、その話題の対象が「村上春樹」で、それをわざわざ「興味ないし」っていう人をたくさん見かけて、珍しくイラ☆っときた。

あれ? いつも優しく見守る余裕があるはずなのに、なんで今回に限って「イラ☆」っときたんだろう? そう不思議に思って自分の心の動きを冷静にリバースエンジニアリングしていったら、すごいことがわかった。



俺、村上春樹の大ファンだったわ!



いやー、うっかりしてた。気付いてなかった。
たまたま全作品読んだことあるくらいにしか思ってなかったけど、こんなことで「イラ☆」っとくるのはたぶん大ファンの心理ですね。

奥さんにも、Amazonで予約注文している時点で大ファンだから、とか言われました。
たしかにね。


[ネタバレ解説] 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年(村上春樹)


色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 [単行本]
著者:村上 春樹
出版:文藝春秋
(2013-04-12)

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『ダ・ヴィンチ』10月号では、作家・村上春樹の巻頭特集を組んでいる。特集では、同誌読者と一般の村上春樹ファン844人を対象にアンケートを実施。村上春樹の長編小説全12作品から人気TOP5を選出した。その結果は以下の通り。

1位『ノルウェイの森』(213票)
2位『1Q84』(156票)
3位『海辺のカフカ』(113票)
4位『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(85票)
5位『ねじまき鳥クロニクル』(62票)

http://ddnavi.com/news/83721/

ダ・ヴィンチに掲載されていた村上春樹人気TOP5が話題になってました。あれが入ってないこれが入ってない、あれを選ぶのは素人だ、うんぬんかんぬん、ってやつですね。

そこで自分は、他人のランキングに意見する代わりに、自分が過去に読んだ回数でランキングを作ってみました。振り返ってみたらこんな感じ。

1回しか読んでない


アフターダーク
1Q84

2回読んだ


1973年のピンボール
羊をめぐる冒険
ダンス・ダンス・ダンス
世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド
ねじまき鳥クロニクル
スプートニクの恋人

3回読んだ


風の歌を聴け (講談社文庫)風の歌を聴け (講談社文庫)
著者:村上 春樹
販売元:講談社
(1982-07)
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海辺のカフカ 全2巻 完結セット (新潮文庫)海辺のカフカ 全2巻 完結セット (新潮文庫)
著者:村上 春樹
販売元:新潮社
(2010-11-05)
販売元:Amazon.co.jp
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4回以上読んだ!


ノルウェイの森 文庫 全2巻 完結セット (講談社文庫)ノルウェイの森 文庫 全2巻 完結セット (講談社文庫)
著者:村上 春樹
販売元:講談社
(2012-03-13)
販売元:Amazon.co.jp
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国境の南、太陽の西 (講談社文庫)国境の南、太陽の西 (講談社文庫)
著者:村上 春樹
販売元:講談社
(1995-10-04)
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まとめ


読んだ回数で並べてみて個人的に発見だったのは、村上春樹を誰かに薦めるときに必ずリストアップする『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』をあまり読んでないな、ということ。すごい作品なんだけど、繰り返し読むほど好きではないみたい。

あとは、発見というか再確認なんですが、「直子系」の話が好きで繰り返し読んでますね。

村上春樹の作品の中には、「10代のときのプラトニック・ラブが、成熟してからのエロスを阻害あるいは燃焼させる」というモチーフが度々登場します。

風の歌を聞け … 僕と直子
ノルウェイの森 … キズキと直子
国境の南、太陽の西 … 僕と島本さん
海辺のカフカ … 佐伯さんとその恋人
1Q84 … 青豆と天吾

これを自分は「直子系」と読んでいるわけですが、これがなぜだかおもしろいんですよね。それに、繰り返し書かれていても、バリエーションが豊富なので読んでいる方は飽きない(3回以上読んでいるのは全部「直子系」でした)。それに、今までこの共通パターンがあったということに気づかなかった、という人もいるんじゃないでしょうか。

侮られがちな『ノルウェイの森』と『国境の南、太陽の西』ですが、個人的には本当にお薦めです。

「鍵のかかった部屋」をいかに解体するか(仲俣暁生)

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下北沢のBook&Beerの古本コーナーで購入した本。「鍵のかかった部屋」をいかに解体するか。

2012-09-08 11:38:50 写真1

ちなみに、この古本コーナーに出品しているのは、著者の仲俣暁生さん自身。おもしろい企画だし、リーズナブルでいい本がたくさんありました。

本の内容は、舞城王太郎や古川日出男を中心とした、村上春樹の後継者(あるいは単にチルドレン)と目される一連の作家たちや、吉本隆明・小林秀雄・寺山修司などに対する批評。

各論でどうこうじゃなくて、こういった守備範囲を持つ文学論がどストライクなので、それだけで満足度が高かった。感想として不適当かもしれないけど「こういう友人がほしいなあ」と思いましたですよ。友人じゃなくても、お兄さんとか、あるいは行きつけのバーのうるさい常連客でもなんでもいいけど(行きつけのバーとかないんですけどね)。


「鍵のかかった部屋」をいかに解体するか「鍵のかかった部屋」をいかに解体するか
著者:仲俣 暁生
販売元:バジリコ
(2007-03)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

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