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狼は帰らず―アルピニスト・森田勝の生と死』を読みました。

ひとに認められたくて、懸命に自己を主張しても思いは果たせず、ついに志半ばのまま終わった――。かなりの人間の、かなりの人生に当てはまる苦さを代弁して、森田の生と死は哀切を帯びる。

文庫版解説のしめくくりに書かれたこの評が、森田勝という人物と、それに魅了される人々の気持ちを的確に物語っています。野心と自尊心を飼いならすことができず、敗北と妥協に折り合いをつけられない、愚かで愛すべきアウトローの実話です。

ちなみに、夢枕獏の小説『神々の山嶺』の主人公・羽生丈二のモデルとなった実在の人物でもあります。でも、夢枕獏があまりにも森田氏の人生にインスパイアされすぎたため、基本的には『神々の山嶺』を読むだけでこと足ります。ただ、奇跡の25メートル登攀の詳細を知りたい人には、『狼は帰らず』がおすすめです。