88冊目 「UNDER GROUND MARKET」 藤井太洋
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2018年。N円という仮想通貨が流通する近未来を描いた経済小説。政府未公認の通貨を使った地下経済というと、ダーティな犯罪劇をイメージするが、実際はその逆。形のないお金(N円)だからこそ、信用が第一。登場人物たちがやりとりしているのは、お金ではなく実は「信用」なのである。
主人公たちは、友人やクライアントとの信用をなにより重視し、それゆえクリーンでフェアな振る舞いを徹底する。だから物語も、信用が失われるかもしれない……という危機によって展開していく。
もちろん、現実世界でも信用は第一だが、地下経済という舞台がそれをより純化させた物語世界を生み出した。こんなに気持ちのいい奴らが活躍する経済小説は他に知らない。

なお、この小説が最初に発表された2013年から先、例のBitcoinの騒動があった。しかし、物語が現実に追いつかれて陳腐化する様子はない。むしろそのはるか先、仮想通貨が普及しつつある社会の人間ドラマを描くこの本の凄みが余計際立ったように思う。おもしろいですよ。
ちなみに、最初に読んだときの感想も書いていたのでリンクする。今回のとはまた違った感想を書いているので、興味のある方はこちらもどうぞ。
http://sasakill.blog.jp/archives/50838305.html