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夏休みの読書の宿題第七弾。そしてこれで最後。

酒見賢一が、周の文王・武王に使えた周公旦を描いた歴史小説『周公旦』。

周公旦 (文春文庫)周公旦 (文春文庫)
著者:酒見 賢一
販売元:文藝春秋
(2003-04)
販売元:Amazon.co.jp
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根本的なアイデアは、サイキック孔子伝『陋巷に在り』で描かれた、「礼」を呪術であり社会システムであるとする考え方。全13巻の『陋巷に在り』の刊行年が1992年から2002年で、『周公旦』の刊行年が1999年なので、スピンオフみたいな立ち位置だと思ってよさそう。

しかしファンとして、『陋巷に在り』の続きを、いつかなんらかのかたちで読みたいなあと思うわけで、今回またその想いをあらたにしました。

紀伊國屋新宿本店の「ほんのまくら」フェアから、3作のネタバレと推薦文

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(クリックすると960ピクセルまで拡大するのでじっくりご覧ください)

本の闇鍋状態…!紀伊國屋の思い切ったフェアが凄い」というまとめがソーシャルメディアで話題です。現時点で30万ビューほども見られているし、Twitterは6000以上、Facebookでも3000以上のシェアがされています(このあともっともっと伸びる)。

紀伊國屋書店の新宿本店はちょうど会社の近所だし、この祭りに参加しなきゃ本好きの名が廃るぜ!

と思って駆けつけたら、現場は意外と冷静で、一畳ほどのスペースに5人くらいがいるだけ。この「ほんのまくら」フェアの場所は2階の中央と聞いてはいたんだけど、あまりにもこぢんまりとしたスペースだったので、売り場の前を何往復しても気づかないくらいだった。
意外とこんなもんなのかもね (´・ω・`)。


実際のラインナップを見てみると、夏休み課題図書みたいな説教くさい教養文学は並んでいなくて(「坊ちゃん」も「人間失格」も「雪国」もなかった)、書き出しの工夫が秀逸な、比較的最近の作家を中心にそろえられていました。このフェアが終わる頃には、きっと誰かが本の正体をリストにしてくれると思いますが、自分がわかる範囲では、そんな印象を受けました。

ということで何点かお薦め。

鉄三のことはハエの話からはじまる。

兎の眼 (角川文庫)兎の眼 (角川文庫)
著者:灰谷 健次郎
販売元:角川書店
(1998-03)
販売元:Amazon.co.jp
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つい最近、角川文庫から新装版が出た時に、装丁が可愛かったからという理由で手にとったんですが、書き出しを読んだ瞬間に心を持っていかれ、そのまま一気に読み終えました。まさに「ほんのまくら」フェアが目指すような体験だったですね。児童文学としてのおもしろさだけでなく、プロレタリア文学の影を感じさせるところもおもしろいです。


減るもんじゃねーだろとか言われたのでとりあえずやってみたらちゃんと減った。私の自尊心。

阿修羅ガール (新潮文庫)阿修羅ガール (新潮文庫)
著者:舞城 王太郎
販売元:新潮社
(2005-04)
販売元:Amazon.co.jp
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理解も共感も要らないので(というかあってもなくてもどっちでもいいので)、舞城王太郎の疾走感のある文体を徹頭徹尾たのしむための本だ、という気がします。舞城王太郎作品のなかでは、かなり好きな方でした。


腹上死であった、と記載されている。

後宮小説 (新潮文庫)後宮小説 (新潮文庫)
著者:酒見 賢一
販売元:新潮社
(1993-04-25)
販売元:Amazon.co.jp
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中国の架空の王朝に関する歴史小説を、司馬遼太郎っぽい文体を使って書くことで、まるで実在するかのように読者に信じこませる痛快な悲喜劇。知性でオブラートにつつまれた下ネタの数々と、そこはかとない切なさが同居する歴史的傑作を描き上げた酒見賢一という稀代の作家の、デビュー作の書き出しの第一説が、「腹上死であった、と記載されている。」という人を喰ったものだってのがいいじゃないですか。

これは個人的な感情に過ぎないかもしれないけれど、「ほんのまくら」フェアに『後宮小説』が含まれていたことで、このリストは信用できるなと思った次第です。偉そうにすみません。

というわけで、お薦めにそって未知の一冊買ってみました。

ブルース・リーが武道家として示した態度は、「武道」への批判であった。

アメリカの夜 (講談社文庫)アメリカの夜 (講談社文庫)
著者:阿部 和重
販売元:講談社
(2001-01-17)
販売元:Amazon.co.jp
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なにこれめっちゃおもしろそう!!!
しかしこのブックフェア、いい企画ですね。

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後日、書き出しの秀逸さといえばこれもそうだなと思い出したので追記します。

春が二階から落ちてきた

重力ピエロ (新潮文庫)重力ピエロ (新潮文庫)
著者:伊坂 幸太郎
販売元:新潮社
(2006-06)
販売元:Amazon.co.jp
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気になる書き出しですよね、これ。

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連休を利用して中島らもの『ガダラの豚』に取りかかったら、評判通りものすごくおもしろくて全3巻をあっと今に読み終えてしまった。


ガダラの豚 1 (集英社文庫)ガダラの豚 1 (集英社文庫)
著者:中島 らも
販売元:集英社
(1996-05-17)
販売元:Amazon.co.jp
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内容は、超能力とトリックをめぐるミステリ&エンターテインメント。そう書くとテレビドラマ『TRICK』を思い出される人も多いと思いますが、あのおもしろさのルーツと思ってもらえれば近いです。というかたぶん、影響を受けているんじゃないかと思います。

検索すると、こんな風な検証をしている人もいますね。

『ガダラの豚』(中島らも著)とTRICKは酷似している。作品の発表は『ガダラの豚』が1993年で先ではあるが、それ以前に、蒔田氏や堤監督の頭の中に構想があったのかもしれない。もしかしたら、TRICK製作サイドは『ガダラの豚』を知らないのかもしれないし、 インスパイアされたのかもしれない。ここではその相違点と共通点を挙げる。

via 『ガダラの豚』との相違

小説の中でおもしろいのは、超常現象と呼ばれているもののトリックをさんざん暴きながら、トリックかどうかわからない(本物の超常現象かもしれない)ものを読者のもとにポンと投げ出すあの怖い感じ。『TRICK』を初めて深夜放送で見たときに受けた衝撃とそっくりです。

ただ、締め方がちょっと残念ではありました。

ガダラの豚は大傑作と呼ぶべき代表作だが、第3部で突然ドタバタ劇になってしまうのは少し残念だ。映像化しやすい娯楽作品として完結させようとしたのだろうか。第1部と第2部のような、じわじわと迫りくる凄みが第3部にはない。スピーディーなハリウッド映画のような、わかりやすくて派手なエンディングで物語は幕を引く。評論家の間でも、第3部については賛否両論があるようだ。

しかし、作品全体としては100点満点で、

第1巻 120点
第2巻 120点
第3巻  60点

という感想で、全体としては満点である。

via 情報考学 Passion For The Future

でも、通読するとそういうことが気にならない。むしろ愛嬌になってます。
なので、スゴ本の中の人のコメントが一番しっくりきますね。

もちろん、アラを探せばいくらでも、叩けばネタは山ほど出てくる。ラストの怒涛の活劇では、強引なつじつまあわせに鼻白むし、サブリミナルが出てきたときはガックリときたが、それでも物語のパワーにもっていかれる。そう、もっていかれる読書なのだな。

via わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

ちなみに、この本ではアフリカの「呪術」が大きなテーマとして取り上げられていますが、それについて思い出したのは酒見賢一の中国を舞台にした小説『陋巷に在り』(全13巻)。


陋巷に在り〈1〉儒の巻 (新潮文庫)陋巷に在り〈1〉儒の巻 (新潮文庫)
著者:酒見 賢一
販売元:新潮社
(1996-03)
販売元:Amazon.co.jp
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孔子の弟子・顔回を主人公に、ここでも「呪い」が大きなテーマになっています。

『ガダラの豚』も『陋巷に在り』も、それぞれの地域や時代で、呪術や呪いといったものが社会的にどのような役割を果たしたかという問題をテーマにしつつ、小難しいことを抜きにしたエンタメ小説に仕上がっているところに、共通点を感じました。全13巻とかなり長いですが、最初の数巻だけでも十分おもしろいので、そういう話が好きな人が本好きにおすすめします。

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というわけで『ガダラの豚』。
読み始めると止まらなくなるので、つらいおもいをしないためにも3冊一気の購入をおすすめします。

中島らも『ガダラの豚』全3巻セット (集英社文庫)中島らも『ガダラの豚』全3巻セット (集英社文庫)
著者:中島 らも
販売元:集英社
(2012-02-01)
販売元:Amazon.co.jp
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松岡正剛さんによる漢字学者/東洋学者・白川静さんの入門書を読みました。


白川静 漢字の世界観 (平凡社新書)白川静 漢字の世界観 (平凡社新書)
著者:松岡 正剛
販売元:平凡社
発売日:2008-11-15
おすすめ度:4.5
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この本の元となった企画が、千夜千冊のバックナンバーとして残されています。


松岡正剛の千夜千冊『漢字の世界』白川静

本のほうも、千夜千冊のほうも、めちゃくちゃにおもしろい。そして、白川静という知の巨人にふれるこのうえない入門編になっています。

ではこの白川静さんがどういう人かというと、「漢字には、文字がなかった大昔からの人類の記憶と文化が刻印されている」と考えて東洋文化を広く研究した人です。

白川静 - Wikipedia

漢字研究の第一人者として知られ、漢字学三部作『字統』(1984年)、『字訓』(1987年)、「字通」(1996年)は白川のライフワークの成果である。甲骨文字や金文といった草創期の漢字の成り立ちに於いて宗教的、呪術的なものが背景にあったと主張したが、実証が難しいこれらの要素をそのまま学説とすることは、吉川幸次郎を筆頭とする当時の歴史学の主流からは批判された。しかし、白川によって先鞭がつけられた殷周代社会の呪術的要素の究明は、平勢隆郎ら古代中国史における呪術性を重視する研究者たちに引き継がれ、発展を遂げた。万葉集などの日本古代歌謡の呪術的背景に関しても優れた論考を行っている。

しかし、白川さんの「漢字の成り立ちに於いて宗教的、呪術的なものが背景にあった」という主張は、「実証が難しい」ようです。そのことで批判されることもあったようです。けれど、白川さんが豊かに描き出した古代東洋の民俗や歴史には、多くのフォロワーがいます。

『白川静 漢字の世界観』を著した松岡正剛さんがそうですし、『日本語が滅びるとき』の水村美苗さんも(たぶん)そうだと思うし、私が大好きな作家・酒見賢一さんもそのひとりです。
そのことを指摘したいい記事があったので紹介します。

酒見賢一『陋巷に在り』全13巻(1) - 腹ふくるるBlog
酒見賢一『陋巷に在り』全13巻(2) - 腹ふくるるBlog

この『陋巷に在り』という作品は、エキサイティングな物語と白川静的世界観のウンチクが高度に融合した超大傑作です。全19巻の北方水滸伝があれだけ売れるんだから、全13巻の『陋巷に在り』も少しは売れてもよさそうなものですが…。2巻までの物語だけでもアニメ化してくれないものかなあ。でないとあまりにもったいない。こんな作品が、ごく一部の人にしか読まれていないなんて、なんという損失!


取り乱したり脱線したりでまとまりませんでしたが、知識人を中心にフォロワーを生み出し続けている東洋文化の知の巨人・白川静の世界にふれようと思う人をひとりでも増やしたくて書きました。超おすすめです。


陋巷に在り〈1〉儒の巻 (新潮文庫)陋巷に在り〈1〉儒の巻 (新潮文庫)
著者:酒見 賢一
販売元:新潮社
発売日:1996-03
おすすめ度:4.5
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後宮小説日本ファンタジーノベル大賞の第一回受賞作『後宮小説』。審査員の井上ひさしは、シンデレラと三国志と金瓶梅とラストエンペラーの魅力を併せ持つ作品だとして激賞したらしい。

今回は(たぶん)4年振りに再読して、通算(たぶん)5回目の読了だけど、ほんとうに何度読んでもおもしろい。自分にとってはジブリのアニメみたいな小説。

この本のエッセンスは、

- 壮大で、もっともらしくて、馬鹿馬鹿しい、冗長性に満ちた大法螺
- 中国の歴史小説

なので、それに刺激されて今、

- 吉里吉里人(井上ひさし)
- 水滸伝(北方謙三)

を読んでる。なぜこんなにおもしろいんだぜ。大衆小説バンザイ。

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