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養老孟司と宮崎駿の対談本『虫眼とアニ眼』は、冒頭に掲載されている22ページの書き下ろし漫画(しかもフルカラー)がとにかく最高で、そのためだけにお金を払ってもいいような本です。

でもそれは置いておいて、宮崎駿の発言のうち興味深かった「“匂い”の組織マネジメント」と「インターネットの本質」の部分を紹介します。


虫眼とアニ眼 (新潮文庫 み 39-1)虫眼とアニ眼 (新潮文庫 み 39-1)
著者:養老 孟司
販売元:新潮社
(2008-01-29)
販売元:Amazon.co.jp
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宮崎駿は、映画監督です。だから当然、制作に関わる数百人を引っ張る組織のリーダーでもあります。最新作について語るインタビューだけを見てると、個人の作家っぽい感じがしちゃいますけど、今回のようにその他の著作を読んでいくと、独特の組織論をもったリーダーであるということがよくわかってきます。

例えばこれ。組織で制作に携わる人は、思い当たるところがあるんじゃないでしょうか。

宮崎:今、ジブリも大変ですよ。危機感はあるというんだけれど、なんか気のいい若者たちのすみかになっちゃって。

実はジタバタしているときというのは、職場に入ったら匂うんですよ。体臭の変化みたいなものだと思うんですけど。これは僕のまったくの仮説ですが、それまでカラーンとしていた職場が、なんか匂いが立ち込めてくるんですよ、澱のように。職場の中にエネルギーが立ち込めているんです。

ところが、今行くとないんです、匂いが。カラーンとしている。これがいちばん怖いですね。

―それがなくなっちゃったというのは何なんでしょう。

宮崎:ぼくがよくなかったんでしょうね。『もののけ姫』やっているときに、しょうがない、この作品はスタッフを養成するものではなくて、食いつぶすしかないと決めたもんですから。で、ほんとに食いつぶしちゃったんです(笑)。

いや、食いつぶすってのは変な言い方で、人間、食いつぶされることはないんです。でも、集団というのは食いつぶし得るんです。(中略)集団の持っているエネルギーがなくなるんですね。だから別な集団に作り変えなきゃいけないんだけれど、まだ、それができていないんだと思うんです。


インタビュアーはその後、それは「才能や個性の問題ではないか?」と投げかけるんですが、宮崎駿はそれを否定して「次にどこへ行くかという問題なんだろうと思う」といい、組織が共有するビジョンが大事だと言う。

こういうことって、どこの組織にもあると思うんですが、それをオフィスに充満する匂いで感じとる感性がおもしろいなと思って抜粋しました。


もうひとつ。
インターネットに対して、よく本質を突いているなと思ったものがありました。

宮崎:情報とかインターネットというのは、基本的に相手を操作しようとする願望じゃないかって思うんですよ。相手に自分の影響力を与えたいということなのではないか。だって映像とか、そんな手間隙のかかるものをただで流すはずないじゃないですか(笑)。

まさしくその通り。情報社会でやり取りされる中心的な価値は、「お金」ではなく「信頼や尊敬」。ネットでは、「信頼や尊敬」をめぐって相互に影響力が行使されています。そういう社会に対して違和感を感じるかどうかは世代によるような気がするけれど、宮崎駿の指摘はまさしくその通りだと思う。

自分は、普段からそういうことを考えられる環境にいるかなんとか理解しているようなもんだけれど、そうじゃなかったら説明されてもよくわからないんじゃないかと思う。

でも宮崎駿は、その本質を、こんな風に鷲掴みにできちゃってる。そのことに驚きました。まじかよ。