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『ゲド戦記』の公開後、『崖の上のポニョ』を制作している2008年に刊行された新書。語り書きということで、内容にはそれほど期待していなかったんだけど、読んでみたらすごくおもしろかった。


仕事道楽―スタジオジブリの現場 (岩波新書)仕事道楽―スタジオジブリの現場 (岩波新書)
著者:鈴木 敏夫
岩波書店(2008-07-18)
販売元:Amazon.co.jp
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その面白さは、鈴木敏夫氏の経歴に端的にあらわれている。

・「週刊アサヒ芸能」編集者
・「アニメージュ」創刊副編集長
・宮崎駿/高畑勲作品のプロデューサー
・スタジオジブリ社長(現取締役)

つまり、ヴィジョナリーを助けて力を発揮するタイプ。自分の中の何かを表現したいというエゴを発揮するのではなく、尾形英夫・宮崎駿・高畑勲・徳間康快という破格の人を助けて大きな仕事をしてきた人です。

その鈴木敏夫氏がどうやって彼らとつきあってきたかが、おもしろおかしく語られているのが本書の魅力。

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素敵な話はたくさんあるんだけど、自分は宮崎駿の性格が好きなので、そのエピソードを紹介します。

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『風の谷のナウシカ』の企画時の話。

監督は当然、宮崎駿。じゃあプロデューサーは誰かということになって、宮崎駿は高畑勲を指名した。それを鈴木敏夫がお願いしに行くのだが、どれだけお願いしても首を縦に振らない。しかも、理屈っぽくて話の長い高畑勲は、自分がいかにプロデューサーに向いていないかを、毎日数時間、2週間に渡って語り続けた。しかも大学ノート一冊分の文章もつけて(やりすぎだろw)。

それを宮崎駿に伝えたら、珍しく「鈴木さん、お酒を飲みに行こう」と言い出した。

飲み屋に行ったら、宮さん、日本酒をガブ飲みするんですよね。ぼくはもうびっくりしました。それまでぼくが見たことのない宮崎駿です。それで酔っぱらったんでしょう、気がついたら泣いているんです。涙が止まらないんですよ。ぼくも困っちゃってね、言葉のかけようがなくて。黙ったまま、とにかく浴びるように飲んでいる。そして、ポツンと言ったんです。

「おれは」

と言い出すから、何を言うかと思ったら、

「高畑勲に自分の全青春を捧げた。何も返してもらっていない」

これには驚かされました。ぼくも言葉が出ないし、それ以上聞かなかった。そうか、そういう思いなのか。

その後もう一度、高畑勲をたずねてこのときの話をしたところ、2週間も理屈こねて断り続けた人が「はあ、すいません。わかりました」と一言で承諾してくれたという話。

過酷な労働で知られるアニメーション制作の世界にあって、宮崎駿は特に苛烈な努力と献身で知られているので、この「全青春を捧げた」という表現は、まさにその通りなんだろうなと思う。だからこそ、この話を聞くと胸の詰まる思いがする。

とまあ、破格の人を傍らで助けるという話が満載です。組織のNo.2の参考としておもしろいんじゃないかと思って、お薦めします。

しかし、本書全編を通して、高畑勲ってのはめんどくさい性格だなw という思いを深めました。

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