カテゴリ:
8月末に、最終巻となる15巻が出るので、それにあわせて溜め置きしておいた12巻〜14巻を一気に読みました。

楊令伝 12 九天の章 (集英社文庫)楊令伝 12 九天の章 (集英社文庫)
著者:北方 謙三
販売元:集英社
(2012-05-18)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る
楊令伝 13 青冥の章 (集英社文庫)楊令伝 13 青冥の章 (集英社文庫)
著者:北方 謙三
販売元:集英社
(2012-06-26)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る
楊令伝 14 星歳の章 (集英社文庫)楊令伝 14 星歳の章 (集英社文庫)
著者:北方 謙三
販売元:集英社
(2012-07-20)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

基本的な読みとしては、11巻読了時に書いた感想『楊令伝に関する解釈と、岳飛伝への期待』の通りで、この見立ての通りに、経済小説的な描写が濃くなってきました。そのなかにあって、水滸伝の登場人物は悩むわけです。「役人」の世界が「商人」へ移り変わるなかで「軍人」は何を為すべきか。

印象的なのは、作中の登場人物が集って楊令について語るシーン。まるで、北方謙三の頭の中で行われている編集会議をのぞきみているような、あるいは加担しているような不思議な感覚。しかもそれが、ちょっとうなりたくなるような、難しい問題なんですよね。

最終巻を読む前に適当な予測・願望を言えば、楊令は歴史から消えるべき。楊令の試みは、あまりにも時代が早すぎた。よく考えてみれば、もともと水滸伝に存在しなかったキャラクターを北方謙三が創作したという時点で、楊令は現代の感覚を持った人間、つまり、この時代においては未来人だ。だから、今後の物語の主人公を、実在した岳飛という人物に譲るためにも、退場していただかないといけないような気がする。ただし、それだけでは寂しいから、死んだけど実は国外で生きて歴史に残る活躍をしているという、義経=チンギス・ハーン伝説のようなオチはどうですかね。もし自分が編集会議に参加していたら、こんなことを言ったと思う。

---

ちなみに、13巻の解説は久し振りに読み応えのある優れた内容でした。
水滸伝のときの解説は、歴史的な傑作を前にしてみな興奮気味で、内容的にも力の入った優れたものが多かったけど、楊令伝になってからというもの、物語の失速に合わせて熱は失われ、「北方さんと私」というテーマの本編とまったく関係のないエッセイに堕していた。それだけに、『楊家将』と『血涙 − 新楊家将』という、水滸伝前史となる物語から『水滸伝』と『楊令』を読み解くという試みは非常によかった。おすすめです。