カテゴリ:
楊令伝(の文庫版)、ついに完結しました。
いやー、長かった。
楊令伝だけで全15巻、大水滸伝でいうと34巻目。
途中、気分的に中だるみもあったけれど、最後の怒濤の展開は、涙なくして読めませんでした。

楊令伝 15 天穹の章 (集英社文庫 き 3-81)楊令伝 15 天穹の章 (集英社文庫 き 3-81)
著者:北方 謙三
販売元:集英社
(2012-08-21)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

楊令伝については、以前、こんなようなことを書きました。

楊令伝に関する解釈と、岳飛伝への期待

キューバ革命を模して「替天行道」というスローガンではじまった北方水滸伝が、2010年代の今に通じる現代小説としてどこまで到達できるかという点で、そして北方謙三がどういう答えを用意するのかという興味の意味で、岳飛伝にはすごく期待をしています。

つまり、心はもう岳飛伝のほうにあったんですが、最終巻ではそんな気がまったく起きませんでした。
梁山泊第一世代たるレジェンドたちの夢が砕けていく過程、儚くて切ない見せ場が連発で、嗚呼これで水滸伝が終わるのだ、という感慨で次の展開を考えている余裕なんてありませんでした。


時代小説としてではなく、現代小説としてどんな価値観を提供するのか、というところへの注目でいえば、最終巻には神懸かり的なシーンがありました。

数百年に一度の大洪水による水害です。

そのシーンの描写で思い浮かんだのは、東日本大震災の津波で町が流される様子そのもの。思わず、最終巻の執筆時期を調べてみたら、なんと3.11をさかのぼること9ヶ月ほど前。作家の想像力が、現実に迫った恐るべきシーンとして、戦慄するような思いでした。人の思惑も志も流してしまう天災。それが物語の最終盤でぴたりとはまって、読者冥利に尽きるぞくぞくすような興奮を覚えました。


そして、後半は、主人公たちのバトンタッチです。

「とにかく、また岳飛ですね。これだけやり合っていると、兄貴かなにか、という気分になりそうですよ」
切迫したところのないもの言いは、秦容のいいところだった。しかし楊令は、その口調にわずかだが苛立った。

このとき、なぜ楊令は秦容に苛立ったのか?

前後の文章では特に詳しい説明はありません。
国語のテスト問題にもできそうな、おもしろい問題だと思います。
これだという答えはわかりませんが、個人的には、岳飛への意識が感じられる文章で、楊令の胸の内を思って想像をたくましくしました。ぜひ他の人の解釈が聞いてみたい部分です。

そしてラスト。

「英雄が、死んだのでしょうか?」
いや、夢が死んだ。言おうとして、岳飛はその言葉を飲み込んだ。

所属する組織をも超えて、なにかが受け継がれた。そんな瞬間を表現した文章だと思いました。なんてロマンティックなラストシーン。本当に満足して、本を置きました。本当にありがとうございます、という感じ。


岳飛伝 一 三霊の章岳飛伝 一 三霊の章
著者:北方 謙三
販売元:集英社
(2012-05-25)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る