小出さんに「山の本」をオススメするための記事
山にはまっているというブロガーの小出さんが、ちがった、同僚の小出さんが、「夢枕獏の『神々の山嶺』おもしろいっすね〜。ほかにもおすすめの本があったら教えてください」とかいうので俺のブロガー脳が思わず反応した。了解じゃあ記事にしますねー、とかいって。神々の山嶺
原作である夢枕獏の小説も素晴らしいけれど、谷口ジローの手になる漫画版にはさらに独特のおもしろさが加わり大傑作になっている。エベレストのベースキャンプでカレーライスとリンゴと紅茶で腹ごしらえするシーンは、なんというかあれだ。孤独のグルメ。読後しばらくはビカールサンの亡霊のような声が耳を離れないだろう。「岸よ〜岸よ〜」。
青春を山に賭けて
文句なしのマスターピース。沢木耕太郎の『深夜特急』が80年代の若者をアジア旅行に駆り立てたように、70年代にはこの本が若者を山に駆り立てた。いや、いまもか。
小澤征爾の名作『ボクの音楽武者修行』とも共通する世界放浪ドタバタ成り上がりストーリーがとにかく気持ちいい。ありがたいことにKindle版があるよ(420円也)。
垂直の記憶
続いては、現代の(そして存命の)登山家・山野井泰史の本。沢木耕太郎が『凍』で山野井泰史のことを描いているけれど、オススメは断然こちら。つたなさゆえのリアリティが味わえる。本人と妻の手記が交互に登場するのも良。
作中のハイライトは、偉大なる成功……ではなく偉大なる失敗。誇張ではなく、正味の意味で「死の淵」から帰還した偉大な夫婦の記録に衝撃を受けるべし。こちらもKindle版あり(598円也)。
チベット旅行記
1800年代末、神戸に生まれたおぼうさん河口慧海師が、チベット語で書かれた仏教の経典を求めてヒマラヤを踏み越えていく顛末を記録した手記。裸になって氷の川を渡り、降雪の高山で羊だけを抱えてビバークしするという、現代的なギアに一切頼らない山行はあまりにも過酷で、現代人ならまず確実に死んでる。でも、徳の高い河口師は一切の愚痴を言わず仏道に精進する。そこがユーモラスで、この本のおもしろさを独自の高みに押し上げている。
発表後、『Three Years in Tibet』というタイトルで英訳され世界中でベストセラーにもなった名作。オリジナルは青空文庫やKindle版で読めるけど、多少読みづらい。現代語訳された白水社のバージョンがおすすめ。あと、私が絵本向けに現代語訳した絵本バージョンもあるのでそっちも買ってね。
クライマーズハイ
御巣鷹山の日航機墜落事件をテーマにしたフィクション。新聞記者の職業的内幕を描いた徹夜必死の小説ですが、山も重要な舞台になっているのでここでおすすめ。普段小説を読まない人にとっても、力のある小説がどういうものか味わえる傑作。映画版じゃなく、本で読もう本で(Kindle版470円也)。
熊を殺すと雨が降る
何十年も山暮らしを続ける著者・遠藤ケイが、現役のマタギに捧げた一冊。それは学徒のための民俗学ではなく、いま山に生きる者たちのための民俗学だ。都市に生きる者には一切の役に立たない、それゆえに憧れを抱くような山の生活。それを考えなしに「素晴らしいなー」と賛美することに無責任さを感じないではないけれど、かっこつけるのはやめよう。男なら、憧れるだろ。
釣山河
高い山に登るわけでも、険しい崖に挑むわけでもない。山本素石は、渓流釣りの達人として沢をのぼる。戦後からマイカーブームの時代にかけて、山に暮らす人々との交流や孤独な人間の影を描き続けたエッセイスト。
文芸作品としても超一流なんだけれど、すべての作品が長らく絶版状態にあった。ところが2012年についに復刻。なかでも、断片的にエピソードが綴られる廃村茨川シリーズを収録した本書がおすすめ。読んだらまず間違いなくマネしたくなるはず。
雨天炎天
春樹と山? じゃあこれは読まなくていいやと思ったかもしれない。やれやれ。春樹と山だからおもしろいのだよ!
地理的環境と宗教によって隔絶された前近代的なギリシャ正教の聖地・アトス山に、バブル経済のピークだった日本からジャズのレコードだのキュウリのサンドイッチだのにうるさい都市の記号をまとった小説家が訪れる。そして、不便で理不尽な山の生活に悪態をつきながら、最後にはただひとつのレモンに天上の甘露のような喜びを覚えるようになるという旅行記。
“山”という、現実世界から遠く離れたもうひとつの世界に憧れを抱く者にとっては、これもまぎれもない山の本だ。
関連リンク
この山の本がスゴい
http://dain.cocolog-nifty.com/myblog/2013/08/post.html
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