55冊目 『アントニオ猪木自伝』 アントニオ猪木
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文句なしにおもしろい!
波乱万丈の人生を駆け足で紹介するもんだから、本来なら長々と語っていいはずの生老病死がわずか数行で語られて、その省略っぷりになんともいえないおかしみがある。ブラジルを目指す途中、船の上で青いバナナを食べて亡くなった祖父のエピソードもわずか行数、お互いの命を差し出して戦った戦友の死もわずか数行。立ち止まって考えたり、くどくど悔やんだりしない。そこがたまらない魅力。
印象に残ったシーンはいくつもあるが、アメリカに留学中の娘に、倍賞千恵子との離婚を伝えに行った旅の話はとりわけ覚えている。燃える闘魂の裏面にある、素朴なセンチメンタリズムが胸を打つエピソードだった。だらだらと長い国道の途中に車を止めて、草っ原に寝転んで夜になるまで無心に空を眺めながら眠る。人生のどん底にあっても、ひとはちょっとしたことで救われ得る。ただそれだけの気づきが、アントニオ猪木の自伝として読むとえらい説得力がある。
こんなの読んでどうするの? と思う人にこそ薦めたい。
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