夢の仕事について語るときに僕らの語ること
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明日、2017年9月1日を最終出社日とし、本年10月末、LINE株式会社を退職いたします。
2005年からの5年間を株式会社ライブドアで、2010年からの7年間をLINE株式会社(買収当時NHN Japan株式会社)で、都合12年もの間、みなさまに大変お世話になってきました。この場を借りてご報告と、お礼を述べさせてください。本当にありがとうございました。
これはいわゆる退職エントリーというやつです。
これを書く心境になるまでに、いろんな感情を渡り歩きました。新たな目標を定めたときの奮い立つ気持ち、恋人に別れを告げるときのような不義理を詫びる気持ち、卒業生を代表して挨拶を読むときような清々しくも寂しい気持ち。いま振り返れば、どのタイミングで書いても、肩に力の入り過ぎたものになっていたように思います。力が入るのはもちろん悪いことじゃないけれど、それは、その言葉を伝えるべき人に面と向かって伝えればいいことで、ブログを使ってパフォーマンスすることじゃないよなと思います。だからここでは、肩の力を抜いて、いま心に浮かんだことだけを書いて、そのまま終わります。
退職の意思を伝えたあと、みな僕に「どうして?」とたずねました。僕はなるべく正直に答えようとしましたが、それはキャッチボールのようなもので、相手の反応によって投げるボールが違いました。みなで寄り集まって答え合わせをしたらまったく違う内容になると思いますが、それらの答えのどれもこれも、僕が投げられるだけの正直なボールです。そうご理解ください。
そういう態度で臨むと、相手も僕に正直なボールを投げ返してくれるんですね。長く付き合ってきても、これまで知ることのなかった正直な話。それは夢の仕事についての語りです。今の自分が決して偽りではないけれど本当に思っていることはこうなんだ、と。これはネガティブな話ではなくてです。現実逃避や、ワークライフバランスというお題目の悪い側面ではなく、夢と現実を融合させて人生を歩もうとする力強い言葉として、語ってくれるんです。僕は図らずして、そうした言葉を寄せ付ける媒介に(いまのところ)なったというわけで、その立場を楽しんでいます。
それについて、在職中にもっと胸襟を開いて語り合えたのではと思わないこともありませんが、まあ、望むべくもないことでしょう。そんなことばかりを語り合ってもいられないし、職業上の信頼関係があったからこそいまになって語ってくれることでもあることを思えば、ときたまこうした機会があるだけで十分であり、そうした正直な言葉は一度でも聞けば生涯に渡って忘れることはありません。
ソーシャルネットワークでつながりの途切れない時代とはいえ、退職というのは、どんなに取り繕ったって一緒に過ごす時間が激減することを意味するわけで、これからはどうしたって疎遠にならざるを得ません。そうした寂しい気持ちに支配され、退職エントリーなんて書く気になれないこともありました。
でもいまは違います。僕は正直に夢を語った。相手も正直に夢を語ってくれた。そういうプロセスを経たいま、つながりはかえって強まったという気がしてます。会う回数や交わす言葉は確かに減るだろうけど、そのつながりはいつでも、艱難辛苦をともにした日々を思い出させてくれるし、語り合った夢がこれからの毎日を潤してくれるだろうと思います。
いま僕が言う「夢」というのは、スティーブ・ジョブズやイーロン・マスクが語るようなビジョンではありません。もっとケチな話で、それは、難破した船から夜の海に放り出されるときに、肉体と精神の生存のためにぎりぎりの決断をして、これしか持ち運べなかった、というようなものです。海に浮かぶための板切れ、首からぶら下げる家族写真の入ったペンダント、信仰心を示す聖書、そしてもし手近にあれば残酷な太陽から逃れるための麦わら帽。それくらい。売っても利益にならないし、地上で屋根の下にいる他の誰も欲しがらないもの。けれど、衣服やお金をすべて捨てでも、それだけは持ち出さざるを得なかったもの。それが僕の(そして僕に正直に語ってくれた人々の)夢です。僕にはこれしかなかったんだ。僕にはこれだけあれば十分なんだ。そう思えるものだけ持って、再出発します。
というのはちょっとキザすぎる言い方で、年齢なりに身につけたずる賢さやクレバーさも使ってサヴァイヴしたいと思います。そうじゃなければ「こいつ大丈夫か?」と思われるはずなので、そこも正直に書いておきます。
ライブドアとLINEでは、まさに夢の仕事が実現できました。こんなに幸福なことはありません。幸せな時間を長く過ごしてこられました。それはもちろん、組織がもつカルチャーや、メンバーが示す深い理解があってのことで、それはいまも変わりません。素晴らしい環境でした。変わったのは自分のほうで、それはポジティブに成熟や成長だと受け止めていますが、それにあわせた次の挑戦や飛躍をしたいと思うようになりました。そしてそれさえも(私の身勝手な想いさえも)、笑顔で励まして送り出してくれるみなさんに、ただただ感謝しています。本当に、仲間に恵まれた、素晴らしい環境でした。
最後に。
ブログというのは、予言を達成する自己実現ツールだと思うので、恥ずかしげもなく(むしろ恥ずかしがっちゃいけない)夢についてのキーワードを書き記しておきます。
・板切れ = インターネット
・ペンダント = 遠野
・聖書 = 小説
・麦わら帽 = マジック・ザ・ギャザリング
この夢は、他の誰でもなく(ましてクマなんかではなく)僕が食うんだ。そういうつもりで、次の12年間を方向づけるステートメントとして正直に書きました。口は災いの元じゃないよ。幸せの元です。
次のことは、近々お伝えできるタイミングになったときにあらためてご連絡します。
多くのことを言えなくてごめんなさい。
以上。
これが今生の別れではないので、挨拶はあえてぶっきらぼうに言わせてください。
じゃあまた明日。
関連リンク
夢の仕事を掴むため / Mark Rosewater
コメント
コメント一覧 (3)
佐々木様の今後のご活躍をお祈りいたします。
お疲れ様でした。
洋々たる大海原でのサヴァイヴでどのような航路を取られるのか、
益々のご活躍を楽しみにしております。
お疲れ様でした。
お疲れ様でした。