遠野まごころネットの『新・遠野物語』を読んで震災を振り返った
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新・遠野物語——遠野まごころネット被災地支援への挑戦 2011-2013
被災地ではない遠野がなぜ支援ボランティアの中心地になったかというと、それは地理的な理由によるものです。以下の地図を見ていただければ一目瞭然ですが、すべての被災地からほぼ均等な距離にあるんです。

古くから交通の要所だったとはいえ、いまはその面影もなくなった遠野が、こうしたかたちで再び脚光をあびることになるとは。出身者として、なんとも不思議な感慨をおぼえます。
とはいえ、自分が何かをしたわけではありません。ただ東京にいて、いくらかの物資を送ったり、支援金を送ったりした程度です。その意味で、この本に対してもちょっと距離のあるところから冷静に読みはじめたつもりでした。
ところが。
冒頭からいきなりもっていかれました。関係が薄いだなんてとんでもない。これはおまえに関係のある本なんだ。そう言われた感じがしました。
おもえば2011年3月15日、僕のところにこんなメールが転送されてきたのでした。
皆さまへ 2011.3.15
NPO法人遠野山里ネットとして今回の震災への対応を会員一同・スタッフ8名で精いっぱい頑張りたいと思います。よろしくお願いします。
これから定期的に、困っていること等の情報を発信したいと思っています。
1.遠野の位置は、沿岸部の被災地、釜石、大槌、陸前高田市、大船渡市等へ山一つ隔てた内陸部で何処へも1時間足らずで移動できるところです。ルートは確保されました。
2.幸い遠野は人的被害がなく、3日後には電気も回復しています。遠野の位置的なこともあり後方支援基地として機能しています。
3.これから被災された方々が避難して来られる予定になっています。
本日の情報発信
1.ガソリン等油が不足。数日後は動きがとれません。後方支援や、ボランティアにも支障、2次災害も考えられます。遠野の町中は、車の通行が減り、自転車が走っています。
2.政府が石油備蓄を放出と言いました。具体的に何日間で現場のスタンドに届くのか、大臣が会見などでお話しいただければ、パニックは収まります。
3.遠野は少子化によりもとより赤ちゃんの粉ミルクの在庫が少ないところへ、被災された赤ちゃんが来ることで、粉ミルクが大変不足しています。赤ちゃんはそれしか命をつなぐ方法はありません。早く手を打ってほしいです。
4.被災地はコメが不足しています。国にはコメはあるはずですが、農水大臣が会見などでコメ支援を言ってほしい。それまで、地域で頑張ってほしいと言われれば頑張りようがあります。
5.被災地のライフラインが回復するメドが立ちません。当面、乾電池、ろうそくが必要です。
6.報道(特にテレビ)の影響力と、あり方につきまして、リポーターが「現地は何が不足していますか」という質問に現地の人が何も言えなかったり、「今のところ充足しています。」という報道に疑問があります。被災地はそのところによって事情が違います。そのことが被災地全体のイメージにつながることが心配です。
7.スーパーには牛乳はありませんが、近くの酪農家は、毎日絞しぼらざるを得ない牛乳を捨てているという現象が起きています。集乳車が油がないことで来ないために捨てざるを得ない状況です。
また、情報発信します。
NPO法人 遠野山里暮らしネットワーク 菊池新一
スーパーに牛乳はないのに、酪農家は毎日牛乳を捨てざるを得ない
これを読んだ私は、そのあと入った情報も取りまとめて、「遠野市役所を通じて大槌町・釜石市・大船渡市・陸前高田市の被災者に救援物資を送る3つのステップ」という記事を書き、私自身もそのように行動しました(「救援物資を買出しに行くの巻」)。
あの当時は情報が錯綜していて、物資にしてもお金にしてもどこにどう送るのが正しいのかよくわかっていなかったのですが、今回この『新・遠野物語』を読んで、それが間違っていなかったのだということがわかり、非常にうれしい思いをしました。
救援物資のリストは、被災者に直接聞いて作成した机上の空論ではない真に迫ったリストでしたし、あの混乱状況のなかで私(たち)が送った救援物資がどのように被災地まで届けられたかもよくわかったし、口座に振り込んだお金がどのように使われたのかも、すごくよくわかりました。関係が薄いなんてとんでもない。あのとき協力してくれたみんなに読んでほしいと思える、深い関わりをもった本でした。
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このときの「NPO法人 遠野山里暮らしネットワーク」や「遠風会 被災者支援チーム」が、2011年3月28日に立ち上がる『遠野まごころネット』の母体となっていった、ということもこの本には詳しく書かれていますが、なかでも気に入ったエピソードがあったので引用します。
会の名称を、遠野青年会議所の小松正真が「HEY! HEY! ネットワーク」と提案した。HEY(ヘイ)に、遠野や被災地一帯を呼ぶ「閉伊」地方の意味を込め、そこに気軽に支援にいく姿勢を重ねた。しかし現地の惨状に照らしてそぐわないと不採用。「遠野まごころネット」に決まった。
「HEY! HEY! ネットワーク」にしなくて本当によかったな思いつつも、心のなかでは「うまい!(笑)」と思ってしまった。そのときのみんなもそう思ったからこそ、ボツになった名称のためにわざわざ紙幅が割かれているんでしょうね。
ちなみにこの小松正真というのは小中高の同級生ということもあり、個人的には余計におもしろいエピソードでした。それでひさびさに連絡を取ってみたら、「次は仕事で被災地に絡む予定」「大船渡に事業所作ることになった」「今度は大船渡の物産サイト!夏から秋にかけてオープン予定!」など、まだまだ続く復興の話を聞けた。この前向きなメッセージを読んだら、やっぱ「HEY! HEY! ネットワーク」でもよかったのかもねと、そんな気がしました。
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この本の美点は、震災後の話がみんなにも深く関係あるんだよ、ということを自然に気づかせてくれるところにあります。「震災を忘れるな」というスローガンのもと強制的に気づかせるのではなくて、自分が知らず知らずやっていたこと、考えていたことをきっかけに、自発的に気づかせてくれる。そういう本です。
さまざまな人の証言を集めた本なので、読む人によって発見するものが違うと思いますが、少なくとも私はそのように読みました。
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「そんなことがあったのか」と驚いたのは、柳田國男の長男の奥さんを中心として『遠野物語』に縁のある人々が復興に協力してくれていた、ということ。この『新・遠野物語』というタイトルが、そんな風につながってくるだなんて。
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ちなみに、実は私も遠野物語関連の本を出しました。
今年からパブリックドメインになった柳田國男の『遠野物語』全119話の中から、女性にまつわる物語だけを12篇抜き出して、解説を加えた本です。妖怪のカタログでも、民俗学の資料でも、古典文学でもなく、現代と変わらない感性をもった生身の人間だけが登場する『女たちの遠野物語』。遠野物語を一度は手にとってみたけど読みきれなかったという人にこそ読んでほしい内容です。

著者:柳田 國男
出版: 焚書刊行会
(2013-03-17)
ふるさとは遠きにありて思ふもの。
遠野物語から遠く離れて。
なんだかよくわからない話になっちゃいましたが、『新・遠野物語』も、ついでに『女たちの遠野物語』もよろしくお願いします。