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西村賢太の私小説を時系列に並べてみる

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この記事は、西村賢太の短編を時系列に沿って読み直すための個人的なメモです。


※ 現時点の最新刊『棺に跨がる』まででわかる範囲で書いています。
※ 単行本未収録作品は調べられていません
※ 「WEB本の雑誌」のこの記事をベースにして書き足しましたが、元のほうに表記の誤りがあった場合は直しています。

秋恵以前


「潰走」(『二度はゆけぬ町の地図』収録)
「貧窶の沼」(『二度はゆけぬ町の地図』収録)
「人もいない春」(『人もいない春』収録)
「腋臭風呂」(『二度はゆけぬ町の地図』収録)
「苦役列車」(『苦役列車』収録)
「春は青いバスに乗って」(『二度はゆけぬ町の地図』収録)
「二十三夜」(『人もいない春』収録)
「けがれなき酒のへど」(『暗渠の宿』収録)
「墓前生活」(『どうで死ぬ身の一踊り』収録)

秋恵以後


「暗渠の宿」(『暗渠の宿』収録)
「焼却炉行き赤ん坊」(『小銭をかぞえる』収録)
「小銭かぞえる」(『小銭をかぞえる』収録)
「乞食の糧途」(『人もいない春』収録)
「赤い脳漿」(『人もいない春』収録)
「昼寝る」(『人もいない春』収録)
「陰雲晴れぬ」(『寒灯』収録)  *1
「寒灯」(『寒灯』収録) *1
「肩先に花の香りを残す人」(『寒灯』収録) *1
「どうで死ぬ身の一踊り」(『どうで死ぬ身の一踊り』収録)
「棺に跨がる」(『棺に跨がる』収録)
「膿汁の流れ」(『瘡瘢旅行』収録)
「脳中の冥路」(『棺に跨がる』収録)
「廃疾かかえて」(『瘡瘢旅行』収録)
「豚の鮮血」(『棺に跨がる』収録)
「瘡瘢旅行」(『瘡瘢旅行』収録)
「破鏡前夜」(『棺に跨がる』収録)
「一夜」(『どうで死ぬ身の一踊り』収録)
「膣の復讐」(現時点で単行本未収録)
「腐泥の果実」(『寒灯』収録)
「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」(『苦役列車』収録)

*1 順番の前後をまだちゃんと確かめられていません。「どうで死ぬ身の一踊り」より前で、「暗渠の宿」より後であることはわかっています。ちゃんと読んでいけばわかると思うので、あとでやるか、どなたか教えてくれる人があれば修正します。

これから読む人へのおすすめ


「けがれなき酒のへど」(『暗渠の宿』収録)あるいは、作品のインパクトという意味でやはり「墓前生活」(『どうで死ぬ身の一踊り』収録)から先を読みはじめるのがおすすめです。

どうで死ぬ身の一踊り (講談社文庫)どうで死ぬ身の一踊り (講談社文庫) [文庫]
著者:西村 賢太
出版:講談社
(2009-01-15)

暗渠の宿 (新潮文庫)暗渠の宿 (新潮文庫) [文庫]
著者:西村 賢太
出版:新潮社
(2010-01-28)

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2012年の正月に立てた「ビジネス書を読まない」という抱負を守って、今年は文学や批評ばかりを読み継いでます。

そうするうちに、何かのついでに買ったものの推薦の理由も忘れて読まずに置いていた夏目漱石の最晩年の作品『道草』の背表紙と目が合って、ぱらぱらめくり出してすぐ驚いた。「お、これって私小説じゃないの」と。

道草 (岩波文庫)道草 (岩波文庫)
著者:夏目 漱石
販売元:岩波書店
(1990-04-16)
販売元:Amazon.co.jp
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漱石の作品で既読なのは『吾輩は猫である』『坊ちゃん』『草枕』『こころ』『夢十夜』で、そこからはこの私小説的作風を想像できなかったというのが驚きの理由のひとつだけど、もっといえば、かの有名な大作家が私小説を書いてたの? ということ自体が意外だった。

それによって、私小説を一段低いものに見ている自分に気づいたし、そのことにさしたる根拠がないことにも思い当たった。

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現在、私小説といえば西村賢太です。小説家ではなく、“私小説家”を名乗るその作風は、ピカレスクとギャグのバランスが絶妙で最高におもしろい(そういえば今日はちょうど芥川賞を獲った『苦役列車』の映画の封切りですね)。

苦役列車 (新潮文庫)苦役列車 (新潮文庫)
著者:西村 賢太
販売元:新潮社
(2012-04-19)
販売元:Amazon.co.jp
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その西村が、作中で何度も口にするのが、かつて文学の主流であった私小説の復権について。たしかに現在、私小説なんて誰も読まないですよね。

かくいう自分も、西村賢太より前に読んだことがある私小説といえば、私小説の元祖である『蒲団』と団鬼六の私小説シリーズ(新潮社より出版されたものがそれです)ぐらい。

蒲団・重右衛門の最後 (新潮文庫)蒲団・重右衛門の最後 (新潮文庫)
著者:田山 花袋
販売元:新潮社
(1952-03)
販売元:Amazon.co.jp
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美少年 (新潮文庫)美少年 (新潮文庫)
著者:団 鬼六
販売元:新潮社
(1999-10)
販売元:Amazon.co.jp
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じぶん私小説について全然知らなすぎましたわー、ってことでちょっと掘り下げてみることにしました。

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最初に手に取ったのが、評論家として信頼している小谷野敦の『私小説のすすめ』。

私小説のすすめ (平凡社新書)私小説のすすめ (平凡社新書)
著者:小谷野 敦
販売元:平凡社
(2009-07)
販売元:Amazon.co.jp
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これがとにかくおもしろかった。
無意識のうちに無視していた私小説という鉱脈を発見して、読むべき本や読みたい本が一気に増えた感じです。

本書のなかで、現代の私小説作家として特に名前が挙がっているのが、前述の西村賢太と佐伯一麦と車谷長吉の3人。あとのふたりは未読だったので、特に推薦されている一冊を取り寄せて早速読んでみました。

木の一族 (新潮文庫)木の一族 (新潮文庫)
著者:佐伯 一麦
販売元:新潮社
(1997-03)
販売元:Amazon.co.jp
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90年代の埼玉を舞台にしたつげ義春、といった読後感。
おもしろい!

漂流物 (新潮文庫)漂流物 (新潮文庫)
著者:車谷 長吉
販売元:新潮社
(1999-10)
販売元:Amazon.co.jp
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私小説の枠組みをひとつ超えた実験性も感じさせる内容で、狐につままれたような、突き放されたような読後感はレイモンド・カーヴァー的。私小説にはこんなこともできるのか!

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小谷野氏の主張でなるほどと思ったのは、私小説ではないと思われていない小説も、実は私小説であることが多い、という点。日本人作家の作品は、早々に私小説だと判明するケースが多いが、海外作家の作品は、日本人にとって研究が遅れていることから私小説だと判明するケースが少ない(あるいは遅い)だけだと。そのことで、私小説というのがいかにも日本的な特殊な文学だとして低く見るのは誤りであると、そういう主張です。

たしかに、村上春樹の『ノルウェイの森』なんて、最高に私小説ですよね。作者自らが謳った「リアリズム小説」というのは、つまり私小説だと思ってよさそうだし、現にそうだというのは定評になっています(ちなみに、作中の緑というのは、村上春樹の奥さんがモデルだそうです。素敵な女性ですよね)。

ノルウェイの森 文庫 全2巻 完結セット (講談社文庫)ノルウェイの森 文庫 全2巻 完結セット (講談社文庫)
著者:村上 春樹
販売元:講談社
(2012-03-13)
販売元:Amazon.co.jp
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そう考えてみると、なんで今まで私小説を避けてきたのか本当にわからなくなってくる。今では、もったいないことをしたなと非常に後悔しています。

というわけで、おもしろい私小説があったら教えてください。
自分もいろいろ読んで、いいのがあったらまた感想書きます。

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西村賢太の小説を、既刊のものは全部読みました。

そのうちデビュー作『どうで死ぬ身の一踊り』は入り口として一番のおすすめ。その後の『暗渠の宿』『二度はゆけぬ町の地図』『小銭をかぞえる』『廃疾かかえて』も文庫化されており価格的にもおすすめです。

『人もいない春』『苦役列車』はまだ単行本でしか出ていませんが、どちらも素晴らしい出来なので我慢出来ない方はすぐ手に取ることをお薦めします。

あと、『一私小説書きの弁』は藤沢清造に関する文章をまとめたものなのですが、西村賢太への興味から読みだすと、まあ…途中で飽きます。あまりお薦めしません。

さらに夏には、西村賢太が私淑する藤澤清造の『根津権現裏』が復刊されるそうですが、検索してみたら近代デジタルライブラリーで読めました(こちら)。なんだか、現代の読者の心情的に今これを読んで得るものがあるかまったく自信がありません。でも、西村賢太の執念みたいなものに触れたいので、私はたぶん購入すると思います。

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今月のサイゾーには、岩井志麻子×西村賢太の対談が載ってます(プレミアムサイゾーで読む場合はこちら)。

サイゾー 2011年 06月号 [雑誌]サイゾー 2011年 06月号 [雑誌]
販売元:サイゾー
(2011-05-18)
販売元:Amazon.co.jp
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印象的だった事その1。秋絵との別れ際はいまだに書けない、とのこと。だからこそ、その手前のエピソードを書き続けているそうです。

印象的だった事その2。「西村さんって自分のこと好きですよね?」という岩井志麻子の質問に、「はい」と答える西村賢太。やっぱり、自分が好きじゃないと私小説なんて書けないですよね。そんなあたりまえのことですが、自虐的な内容の小説だけに驚きがありました。

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というわけで以下の西村賢太の既刊全リスト(発表順)。

どうで死ぬ身の一踊り (講談社文庫)どうで死ぬ身の一踊り (講談社文庫)
著者:西村 賢太
販売元:講談社
(2009-01-15)
販売元:Amazon.co.jp
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暗渠の宿 (新潮文庫)暗渠の宿 (新潮文庫)
著者:西村 賢太
販売元:新潮社
(2010-01-28)
販売元:Amazon.co.jp
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二度はゆけぬ町の地図 (角川文庫)二度はゆけぬ町の地図 (角川文庫)
著者:西村 賢太
販売元:角川書店(角川グループパブリッシング)
(2010-10-23)
販売元:Amazon.co.jp
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小銭をかぞえる (文春文庫)小銭をかぞえる (文春文庫)
著者:西村 賢太
販売元:文藝春秋
(2011-03-10)
販売元:Amazon.co.jp
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廃疾かかえて (新潮文庫)廃疾かかえて (新潮文庫)
著者:西村 賢太
販売元:新潮社
(2011-04)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

人もいない春人もいない春
著者:西村 賢太
販売元:角川書店(角川グループパブリッシング)
(2010-06-30)
販売元:Amazon.co.jp
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苦役列車苦役列車
著者:西村 賢太
販売元:新潮社
(2011-01-26)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

随筆集 一私小説書きの弁 (新潮文庫)随筆集 一私小説書きの弁 (新潮文庫)
著者:西村 賢太
販売元:新潮社
(2011-04)
販売元:Amazon.co.jp
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収録されている短編を時間別に並べ直して、全部読み返したい気分。

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最近はまっている西村賢太。
新千歳空港で買って、帰りの便で読みました。


人もいない春人もいない春
著者:西村 賢太
販売元:角川書店(角川グループパブリッシング)
(2010-06-30)
販売元:Amazon.co.jp
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収録されているのは以下の6本。

・人もいない春
・二十三夜
・悪夢 ― 或いは「閉鎖されたレストランの話」
・乞食の糧途
・赤い脳漿
・昼寝る

3本目の「悪夢」は珍しく風刺的なショートショートでいわゆる北町貫太サーガではないので、それがこの短篇集の隙といえば隙。でも、後半の3作の内容がすごくいい。

自伝的私小説というジャンルだと、いつかの日かモチーフが底をつくんじゃないかとか、飽きられるんじゃないかとか、読者ながらそんなことが心配になるんですが、それはたぶんまったくの杞憂だなと思いました。

この後半の3作には、全盛期の松本人志のコントのように、哀しさと残酷さと滑稽さのなかに企みのない笑いどころがあって、飛行機の中で声を出して笑ってしまった。誇張なくお茶吹いたw

北町貫太のキレ芸の鋭さは、もうこれ一本で一生読者を飽きさせないレベルにまで突き抜けている感じがする。ここまできたら、モチーフが底をつくこともないし、飽きられることもないんじゃないかと思う。笑いは、ベタであることが喜ばれるわけだから(もちろん、笑わせるための小説というわけじゃないんですが)。このキレ芸をとことん突き詰めて、いろんなバリエーションを読ませてほしい。たぶん一生ついていきます。

ちなみに、松本人志とYouのふたりで西村賢太の私小説を原作にした映画が撮れたらおもしろそうだなと、そんなことまで思った。もちろん監督は松本人志ではない人で。

最高におすすめです。


人もいない春人もいない春
著者:西村 賢太
販売元:角川書店(角川グループパブリッシング)
(2010-06-30)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

カテゴリ:
デビュー作『どうで死ぬ身の一踊り』に衝撃を受けて(前回の記事)、その後の作品を3冊一気読みした。


暗渠の宿 (新潮文庫)暗渠の宿 (新潮文庫)
著者:西村 賢太
販売元:新潮社
(2010-01-28)
販売元:Amazon.co.jp
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二度はゆけぬ町の地図 (角川文庫)二度はゆけぬ町の地図 (角川文庫)
著者:西村 賢太
販売元:角川書店(角川グループパブリッシング)
(2010-10-23)
販売元:Amazon.co.jp
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苦役列車苦役列車
著者:西村 賢太
販売元:新潮社
(2011-01-26)
販売元:Amazon.co.jp
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これらに収録されたすべての短編が、いずれも自伝的な私小説で、かつ、時代が前後するのでどれがどういう作品だったという印象が薄くなってしまうのは否めないんだけど、それでも全部おもしろい。

特に印象に残っているのは、芥川賞を受賞した「苦役列車」の表題作。
友情と優越感と屈辱とルサンチマンと破壊的な衝動とがないまぜになった、苦い青春の蹉跌といった一遍。西村賢太の私小説にシンパシーを感じることはほとんどないんだけど、10代後半の青春時代を描いたこの作品は別だった。確かに、こういう気持ちになることはあったような気がする。それが特別な印象につながった。

まだ文庫になってないので単行本でしか買えませんが、『苦役列車』はおすすめです。

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