20冊目 『オービタル・クラウド』 藤井太洋
- カテゴリ:
- 1000冊紹介する
サン=テグジュペリが『夜間飛行』や『人間の土地』で地上から見える国境のない世界を提示したように、藤井さんはさらに上空(宇宙空間の入り口の高さ)から新しい世界を見せてくれた。
地表があって、宇宙があるのではない。地表からすでに宇宙につながっている。海があらゆる国に面しているように、いま自分が立っている場所がそのまま宇宙に直結している。それを実感させるのは、いくつかの道具の力を借りた人間の智慧と想像力だ。私はこの本を読み終わって、思わず空を見上げた。文字通り、フィジカルに、本当に。
藤井さんの小説に共通するのは、高度に発展したサイエンスのダークサイドと戦い勝利する労働者たちの姿だ。オフィスでも電車でも夫婦の寝室でも青白いスクリーンに呪縛されている私たちの心理は自然、主人公たちを応援し、またその活躍に共癒されることになる。
年末年始の休暇に読むものを探している企業戦士たちにおすすめ。